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心臓の鼓動が早鐘を打ち始める。
「おい、あんまそいつに触んじゃねえよ。何してんだお前」
「これは失礼」
男性は私を鼻で笑ってから手を離す。
握られた部分が手の形に赤く染っていた。
優しくしないでほしかった。
そんな言葉を私のために言ってほしくなかった。
『……では、私はこれで失礼しますね』
それ以上聞いてしまったら何をするか分からないので、軽くお辞儀をしてその場を後にしようとする。
「A!!」
私の名前を呼ぶ。
当たり前だが、最初に私の名前を呼んだ時と比べてかなり低い声になったな。なんて思った。
声変わりで声が出ない悟を笑い過ぎて、いざ声が出るようになっても暫く口を聞いてくれなかった日を思い出した。
「おい、A!」
悟が私の肩を掴んだ。
男性に腕を掴まれた時よりは遥かに手加減されていたが、それでも行かすまいとしっかり掴んでいた。
「さっきの話なんだけど」
言いづらそうに彼が口を開いた。
それに続く言葉を聞きたくない。
もう何を言われても私は泣いてしまいそうだった。
「A、俺は_____」
この方法しか、私には残っていない。
『当主様がお待ちなのでしょう?早く行った方がいいのでは。
にっこり笑って振り返る。
その反動で私の肩から彼の手が滑り落ちた。
これだけ悟の驚いた顔を見れたのは今日が初めてではないだろうか。
唖然とした彼に再びお辞儀をして足早で立ち去った。決して振り返らずに、悟から離れていった。
悟の気配が無くなると、私は堰き止めていたものが決壊するように泣き出した。
『……ご、ごめんなさっ…い』
もう止める必要もない。いっその事、成るままに泣いてしまえばすっきりするかもしれない。
『弱く、て…ごめんなさい』
鼻の奥がツンと痛くなる。
独りは嫌だ。
私が悪いのに、置いていかないでほしいとまた泣いてしまう。
離れていったのは、私なのに。
最後まで我儘で、ごめんなさい。
「A」
祖父の声。
振り返ると、いつも笑っていた祖父が、感情が抜け落ちたように無表情で立っていた。
「話があるんだ」
私はもう、彼と会うことは叶わないだろう。
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怠慢のにぼし(プロフ) - 緑の白猫さん» ご感想ありがとうございます!そう言っていただけて、構成に頭を悩ませた時間も無駄ではなかったのだと嬉しく思います。 (2021年2月23日 22時) (レス) id: 8a1e62ce6d (このIDを非表示/違反報告)
緑の白猫 - ストーリーの構成も上手いし、時間軸の移動の仕方も上手いしで…。堪らなく大好きな一作です! (2021年2月23日 21時) (レス) id: 41276e8159 (このIDを非表示/違反報告)
怠慢のにぼし(プロフ) - 琥珀さん» こちらこそ初めまして(*´ч ` *)こちらは五条悟オチになります。嬉しいお言葉ありがとうございます!本当に励みになります (2021年1月20日 10時) (レス) id: 8a1e62ce6d (このIDを非表示/違反報告)
琥珀 - 怠慢のにぼしさん初めまして、この小説は五条悟オチですか?続き頑張って下さい。応援してます。 (2021年1月20日 10時) (レス) id: 8685377221 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:怠慢のにぼし | 作成日時:2021年1月19日 20時