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私が彼らの会話を聞いてしまったのは、昨夜のことだった。
風呂に行こうと廊下を歩いていると、祖父の自室から怒声が聞こえた。
何事かと思って足音を立てずに近づく。
祖父は誰かと言い争っているようだった。
「__それはどういう意味だ」
「____だから、何度も言っているでしょう。五条家当主様は婚約を破棄したいと言っているのです」
心臓がどくんっと跳ねる。
落としそうになった着替えを胸にしっかり抱き締めて深呼吸をする。
「____何故そんなことを急に言い出すんだ?許嫁という立場になってからもう6年は経っているんだぞ」
礼儀作法の手本のような祖父の口調が、余程怒っているのか今は荒かった。
「____元々あれは一槻様が無理やり取り付けたのでしょう?当主様も内心良い心持ちではありませんでしたよ」
「____それはそうだが、何故今なんだ」
「____去年の、誘拐事件を忘れたわけではありませんね?格下の呪詛師にA様は負けたのですよ」
「______当たり前だろう。あの子は小学6年生だったんだぞ」
「____ええ、普通は無理難題な話でしょう。ですが、"悟様の妻"になる人ならば話は別です。悟様はいずれ呪術界を担う御方ですから、そんな彼を支えるのが中途半端な実力では風当たりも悪いんですよ」
「____そんなことはない。Aは日々身を粉にして着実に強くなってきているんだ」
「______誘拐事件の後もそう言っていましたが、1年が経った今。何が変わったのでしょう?まさか未だに呪符を用いた術式のことをおっしゃらないですよね?幾ら強力な術式でも呪符を用いなければならないなんて笑止千万ですよ」
男性の言葉を節目に祖父の声が途絶える。
少し開けて、祖父の捻り出したような声がした。
「____今となって破棄するなど彼らとしても割り切れるものじゃないだろう」
「______そうでしょうね。悟様が知ったら暴れてしまうかもしれません。ですから、この事は今は内密にして、言うべき時になったら貴方様が彼に告白してください」
「では、私はこの辺で失礼します」と立ち上がる音が聞こえたので、急いで来た道を戻って突き当りに身を隠す。
顔を覗かせて見れば、スーツ姿の、よく五条家当主の隣に控えていた付き人の男性が貼り付けた笑みを浮かべて廊下を歩いて行った。
その夜は一睡も出来なくて、一晩中彼らの会話が頭から離れなかった。
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怠慢のにぼし(プロフ) - 緑の白猫さん» ご感想ありがとうございます!そう言っていただけて、構成に頭を悩ませた時間も無駄ではなかったのだと嬉しく思います。 (2021年2月23日 22時) (レス) id: 8a1e62ce6d (このIDを非表示/違反報告)
緑の白猫 - ストーリーの構成も上手いし、時間軸の移動の仕方も上手いしで…。堪らなく大好きな一作です! (2021年2月23日 21時) (レス) id: 41276e8159 (このIDを非表示/違反報告)
怠慢のにぼし(プロフ) - 琥珀さん» こちらこそ初めまして(*´ч ` *)こちらは五条悟オチになります。嬉しいお言葉ありがとうございます!本当に励みになります (2021年1月20日 10時) (レス) id: 8a1e62ce6d (このIDを非表示/違反報告)
琥珀 - 怠慢のにぼしさん初めまして、この小説は五条悟オチですか?続き頑張って下さい。応援してます。 (2021年1月20日 10時) (レス) id: 8685377221 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:怠慢のにぼし | 作成日時:2021年1月19日 20時