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開かれた手の平から、窮屈そうに居座る成鳥より一回り小さい雀の雛鳥が顔を出した。
「なにこれ、ちっさ」
「足と肩羽の部分を怪我してるようで、上手く飛べないみたいなんだ」
「治してやんないんですか?」
「もちろん治すさ。やるのは私じゃないがね」
微笑んで私に目を向けた。
『……私?』
「いい機会だろう?」
「ちょっと待ってください一槻サン。Aはついさっき血吐いたばかりなんですよ」
「そちらはもう完治してるから問題ない。後はAのやる気次第だ」
「無茶したことを咎めたんじゃないんすかさっきは」
「そりゃ無茶はいけないさ。だが時に無理は成長のために必要だよ」
「……違いは?」
「己の限界を知ってその限界すれすれまでやるのが無理。知っていながら身の程を超過した結果、過程を台無しにするのが無茶だと考えている」
「多少無理してでも成長してこそ結果がついてくる。どう道を選ぶかは本人次第だよ。悟くん」
黙り込む悟を祖父は笑って口を開いた。
「偉そうなことを言ってしまって申し訳ないね。しかし、悟くんのAを庇う姿勢を見るとやはり君にして良かったと思うよ」
さぞ嬉しそうに微笑むと、真逆に悟は不服そうに「別に」と顔を逸らして言った。
私はその悟の制服を軽く引っ張って『ありがと』とお礼を言ってから祖父を見た。
『……お爺様。私にやらせてください』
「あぁ、頑張りなさい」
祖父から雛鳥を手渡される。
雛鳥は怪我しているからか、暴れるでもなく私の手の中で成り行きに身を任せていた。
手に伝わる温かさ。凍りつくような冬の寒さにあてられて簡単に消えてしまいそうなくらい儚い命の温かさがそこにはあった。
飛ぼうとして、慣れない飛行故に落ちてしまって怪我をしたのか。それで親鳥に見捨てられたのか。
理由は分からないが、例え見捨てられても。怪我をしていても、冬の冷たい外気に身を晒されても、一生懸命に生きている。
その小さな命を助けたいと心から思う。
呪力を細く綿密に紡ぎ、雛鳥に流し込む。
掌印を構える。
『【
その時。
『え?』
術式が発動して間もなくして、
雛鳥はバタバタと羽を慌ただしくばたつかせた。
あまりに暴れるので私の手から地面に転げ落ちてしまった。
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怠慢のにぼし(プロフ) - 緑の白猫さん» ご感想ありがとうございます!そう言っていただけて、構成に頭を悩ませた時間も無駄ではなかったのだと嬉しく思います。 (2021年2月23日 22時) (レス) id: 8a1e62ce6d (このIDを非表示/違反報告)
緑の白猫 - ストーリーの構成も上手いし、時間軸の移動の仕方も上手いしで…。堪らなく大好きな一作です! (2021年2月23日 21時) (レス) id: 41276e8159 (このIDを非表示/違反報告)
怠慢のにぼし(プロフ) - 琥珀さん» こちらこそ初めまして(*´ч ` *)こちらは五条悟オチになります。嬉しいお言葉ありがとうございます!本当に励みになります (2021年1月20日 10時) (レス) id: 8a1e62ce6d (このIDを非表示/違反報告)
琥珀 - 怠慢のにぼしさん初めまして、この小説は五条悟オチですか?続き頑張って下さい。応援してます。 (2021年1月20日 10時) (レス) id: 8685377221 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:怠慢のにぼし | 作成日時:2021年1月19日 20時