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それは突然だった。


最初はいつもの術式を使った代償で喉がイガイガするくらいだったのだ。



掌印での術式の展開が、練習を重ねれば重ねるほど段々と出来るようになってきたので、思い切って呪力の流れを何段階も加速させた。



『【蔦瓜(ツタウリ)】』



何十回目かの繰り返し。
今度こそは。そういう気持ちで唱えると、小さい破裂音と共に空き缶が弾き飛んだ。



「お、出来たじゃ____」



悟が笑ってこちらを見る。


しかし、私は口元に手を添えた状態で地面に両膝をついていた。



「A!?」



悟は驚いて両肩を掴み、顔を覗き込む。
覗かれた時に見えた彼の顔はかなり焦っているようだった。


指の隙間からポタポタと流れる真っ赤な鮮血。
地面に落ちていく自分の血を見てうんざりする。



『……大丈夫。まだ出来る』


「今日は出来たんだしもういいって、続きは明日やろうぜ」


『今日、やる』



大幅な呪力消費による脱力感と喉に絡まる血に言葉が詰まりながらも、短く意志を伝える。



「何をそんなに急いでんだよ。時間はあるんだからゆっくりやりゃいいじゃんか」


心配と呆れが混じった声に首を振る。


私は近くにいる彼に聞こえないくらい小さな声で独り言のように呟いた。




『……時間なんて、ない』



「あ?今なんて言っ「A」……一槻サン」




彼の言葉を遮った祖父の声に肩を揺らす。

声のした方を振り返ればさっき見かけたばかりの、やはり皺が深くなった祖父が私と私から流れる血を見つめていた




それから目が合い、心臓が跳ねる。

血の流れが聞こえるんじゃないかというほど脈が早くなったのを感じる。



「無茶をしたのかな。ちゃんと休憩をしながらやりなさいと言っているだろう」


いつになく強い口調で咎める。
それを悟も感じたのか、祖父の表情を探るように無言で彼をじっと見た。



『……はい。気をつけます』



怯えがバレないように口角を上げて苦笑いする。
口の端から血が流れた。



祖父に術式で治してもらった。
残るのは血の味だけで、痛みはもう綺麗さっぱり消え去った。



私が『ありがとうございます』とお礼を述べる頃には、祖父はもう普段通りの温和な表情に戻っていた




「一槻サン。その手に持ってるのは?」



悟が祖父の左手に視線をやって尋ねた。
来た時から祖父は左手を受け皿のようにして何かを大事そうに持っている。

「あぁ、これかい。実はさっき縁側で見つけてね」

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怠慢のにぼし(プロフ) - 緑の白猫さん» ご感想ありがとうございます!そう言っていただけて、構成に頭を悩ませた時間も無駄ではなかったのだと嬉しく思います。 (2021年2月23日 22時) (レス) id: 8a1e62ce6d (このIDを非表示/違反報告)
緑の白猫 - ストーリーの構成も上手いし、時間軸の移動の仕方も上手いしで…。堪らなく大好きな一作です! (2021年2月23日 21時) (レス) id: 41276e8159 (このIDを非表示/違反報告)
怠慢のにぼし(プロフ) - 琥珀さん» こちらこそ初めまして(*´ч ` *)こちらは五条悟オチになります。嬉しいお言葉ありがとうございます!本当に励みになります (2021年1月20日 10時) (レス) id: 8a1e62ce6d (このIDを非表示/違反報告)
琥珀 - 怠慢のにぼしさん初めまして、この小説は五条悟オチですか?続き頑張って下さい。応援してます。 (2021年1月20日 10時) (レス) id: 8685377221 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:怠慢のにぼし | 作成日時:2021年1月19日 20時

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