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61話 いつかの花火 ページ32

「兄ちゃん、ぽたとたべたぁい」

「さっきりんご飴食っただろ。あと、ぽたとじゃなくてポテトな」

「やだぁ!ぽたとたべるの!」

「お前なぁ……」

屋台の前を通り過ぎようとしている兄の浴衣の裾を掴んで駄々をこねたのは誰の記憶か。

いつかの祭りの日に、自分より少し大きい手に引かれて歩いた石段を思い出す。

あの後、結局買ってもらって、どうしたんだっけ。

「兄ちゃん」

「なんだ」

「足いたい。おんぶして」

「やだよ。自分で歩け。早くしないと花火始まる」

「兄ちゃんのいじわる……」

「……ほら、今回だけだからな」

ああ、そうだ。
なんだかんだ言って兄の背中に乗せてもらって花火が見えるところまで歩いたんだ。

だから下駄じゃなくてスニーカーにしろって言っただろ、と小言を言う兄の背中は温かかった。

「兄ちゃん、あーん」

「いらねえ」

結局、花火が上がる会場の大広場まで間に合わなくて兄に背負われながら花火を見たんだっけ。

後ろからフライドポテトを差し出して、顔をそむけられたのは覚えている。

「花火きれいだねえ」

「そうだな」

兄が手に持っていた赤い金魚が花火の色に輝いた。



夜空に咲いては消える花火を見ながら凛は懐かしい記憶にふける。

呪いたくなるような記憶を思い出すなんてどうかしてる。

それも全部Aのせいだ。

Aが花火を見たいなんて言い出さなければこんなに苦しくなることなんてなかった。

けれど、当の本人は花火になんかもう興味を示しておらず、グラウンドの砂をいじっている。

「お前、自分から誘ってきたくせに」

「え?あー……綺麗だけどさ、何回もやられると飽きちゃうよね」

Aは手を打ち合わせて砂を払い、背伸びをした。

呑気なその姿に苛立ちを覚える。

「あ、見た?さっき凛の目の色と同じ花火あった!」

飽きたと言ったくせに、また上を向いて花火を見始めた。

自由気まますぎて調子が狂いそうになる。

「綺麗だけどマジで飽きるね」

「どっちだよ」

花火の光が反射したAの顔を凛は横目に見る。

様々な鮮烈な色に染まっていく顔はどこか幼くて、Aの目に映る花火はひどく綺麗に映し出されていた。

不思議と、心地よい気分に満たされた。

62話 ご愁傷さま→←60話 はいチーズ



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殺痲(キルマ)(プロフ) - 由良の門をさん» コメントありがとうございます!彼は人の間に入ってもみくちゃにされるのが得意なのでもしかしたら今後サンドバッグとして活躍するかもしれません笑 (6月5日 9時) (レス) id: 57b9dc3a01 (このIDを非表示/違反報告)
由良の門を - モブ男かわいいです笑笑彼の活躍を期待してる自分がいる (6月1日 22時) (レス) @page9 id: 2f071b2218 (このIDを非表示/違反報告)
殺痲(キルマ)(プロフ) - ねぎさん» コメントありがとうございます!新しい何かがほしいと思い爆誕したのがモブ夫でした…。キルマの作品オリキャラが出しゃばってくることが多いので楽しんで頂けて何よりです!モブ夫の活躍に乞うご期待ですね! (2023年4月9日 12時) (レス) id: 6f6fe81f90 (このIDを非表示/違反報告)
ねぎ(プロフ) - モブ夫を待ってる自分がいる、、笑。あひょ本も最高でした!笑 (2023年4月9日 3時) (レス) @page50 id: 37620205ea (このIDを非表示/違反報告)
殺痲(キルマ)(プロフ) - 龍さん» コメントありがとうございます!玲王のやつはちょっと心配だったので気に入ってもらえて嬉しいです🥰応援ありがとうございます!! (2023年3月6日 21時) (レス) id: ff5faac6c3 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:殺痲(キルマ) | 作成日時:2023年2月9日 18時

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