59話 焼きそばとフライドポテト ページ30
多少嫉妬心はあるが、特に一緒に見る相手がいないのと、一人虚しく散る花火を見たくなかったので承諾した。
凛は空き教室でやり過ごそうとしていたが、Aはどうしても花火が見たかったので「さもなくばお前を女子集団の中に放り込む」と脅し、嫌がる凛を強制的に連れ出した。
グラウンドに設営された簡易ベンチに堂々たる姿で座っている凛の隣にAも座る。
Aの手には二つの白い袋がぶら下がっていた。
「焼きそばとポテト、どっちがいい?」
「……焼きそば」
選んでいるときの顔はいつもより険しかった。
そんなに悩むものかと笑いそうになるのを堪えながら左手に持っていた袋を手渡す。
「俺の奢りね。花火見るの付き合ってくれたお礼」
「ずっと食ってばっかだな」
「なんでそんなこと知ってるの?」
疑問と恐怖を覚えつつも、袋からフライドポテトが入った紙コップを取り出す。
蒸気で少し湿って柔らかくなった紙コップを潰さないよう優しく持って、上に付いたプラスチックの蓋を外し、最初に目に入ったものを口に運んだ。
「すごいな、俺。糸師凛をひとりじめしてる」
「気色悪い言い方すんな」
「ごめんて〜」
左右非対称な割り箸を見てAは笑う。
気にするほどではないが、これはこれで地味に嫌だ。
「……テスト終わったら話すことないね〜って俺から言ったのにさ、全然そんなことなかったね」
「だから?」
「もうちょっと会話弾ませて?ほんと不器用なやつだな」
「……趣味なんだよ」
「ガッチガチの初対面の質問じゃん、それ……。極端だね……」
「お前一生黙ってろ」
凛なりに捻り出した渾身の質問だったのか、舌打ちをする音が聞こえた。
「でも、焼きそば選んでくれてよかった」
「何でだよ」
「ぐちゃぐちゃになったアシナガグモ入ってたから」
盛大に咳き込んで姿勢が低くなった凛が視界の端に映った。
焼きそばが入っていたであろう入れ物はほとんど空っぽだ。
「食うの早いね!」
「そこじゃねえだろ!!ぶん殴られてえのか!!」
珍しく声を荒らげた凛に胸ぐらを掴まれたが、Aはものともせず両手を上げる。
「嘘だから安心したまえ」
「てめッ……」
それでもまだ訝しげに睨んで疑う凛の姿があまりにも面白くて、Aはついに笑いだした。
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殺痲(キルマ)(プロフ) - 由良の門をさん» コメントありがとうございます!彼は人の間に入ってもみくちゃにされるのが得意なのでもしかしたら今後サンドバッグとして活躍するかもしれません笑 (6月5日 9時) (レス) id: 57b9dc3a01 (このIDを非表示/違反報告)
由良の門を - モブ男かわいいです笑笑彼の活躍を期待してる自分がいる (6月1日 22時) (レス) @page9 id: 2f071b2218 (このIDを非表示/違反報告)
殺痲(キルマ)(プロフ) - ねぎさん» コメントありがとうございます!新しい何かがほしいと思い爆誕したのがモブ夫でした…。キルマの作品オリキャラが出しゃばってくることが多いので楽しんで頂けて何よりです!モブ夫の活躍に乞うご期待ですね! (2023年4月9日 12時) (レス) id: 6f6fe81f90 (このIDを非表示/違反報告)
ねぎ(プロフ) - モブ夫を待ってる自分がいる、、笑。あひょ本も最高でした!笑 (2023年4月9日 3時) (レス) @page50 id: 37620205ea (このIDを非表示/違反報告)
殺痲(キルマ)(プロフ) - 龍さん» コメントありがとうございます!玲王のやつはちょっと心配だったので気に入ってもらえて嬉しいです🥰応援ありがとうございます!! (2023年3月6日 21時) (レス) id: ff5faac6c3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:殺痲(キルマ) | 作成日時:2023年2月9日 18時