糸師凛、勉強はレッドカード【2】

54話 ジンクス ページ24

「動かしまーす」

そう言うと男生徒は台車を動かした。

狭い台車の上にはむさ苦しく男が四人乗っている。

月日の流れはやはり早いもので色々準備している内に文化祭はもう明日である。

今はパビリオンの最終確認中で不備がないかを見ている。

もちろんそこにはA乗っているわけで、もう何回目かもわからないくらい台車に乗ってそろそろ限界がきていた。

突進したり回転したり、手動とはいえ勢いがあるのでかなり酔う。

「やっぱここもうちょい広げた方がよくね？」

「だな。誰かカッター持ってきてー」

台車に乗って回されることはなかったが、鈍器で殴られたように頭が痛み、めまいがした。

まずい。完全に酔った。

床にうずくまったAを見た生徒たちはまたかと呆れ、気にせず作業を開始した。


＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿


帰り道、酔い直しに買ったソーダのアイスを頬張りながら潤は笑う。

「三半規管赤ちゃんだな」

「うるせえ」

肘で小突けば、ごめんて、と心にもない謝罪をされる。

アイスの木製の棒の先が現れた頃、潤はそれとなくAに話を振った。

「お前、うちの学校の文化祭のジンクスって知ってる？」

「ジンクス？」

文化祭、ジンクス。

この二つの単語を聞いて何となく恋愛関係なのは想像できたので、Aは訝しげに顔を歪める。

「ほら、うちの文化祭ってさ一日目に花火上がんじゃん？その花火を好きな人と一緒に見て告白すると結ばれるらしいぜ」

ま、俺には関係ねーけど、と勝ち誇ったように言う。

そういえばお前、彼女いるもんな。
見るんだろ、彼女と一緒に花火。
もしかして俺へのあてつけか？

野郎ぶっ殺してやる。

「野郎ぶっ殺してやる」

「怖っ」

一体誰が考えたのだろうか、そういう下らないジンクス。

落ちそうになったアイスを一口で口に入れて溶かす。

「お前ほんと女子好きだよな」

「なんかそれチャラく聞こえるからやめてくんない？」

「あ、でも好きな人いねえもんなあ……」

「失礼な」

「じゃあいんのかよ？」

「いない」

「だろ？そんな執着するもんかねえ」

「中学のとき青春をしてる暇がなかったからね。高校くらいはせめて、青春謳歌したいの」

沈黙が流れる。

アイスを咀嚼する音がかすかに聞こえる。

アイスの残骸をAはゴミ箱に投げ入れた。

「重い雰囲気にすんな！気まずいだろうが！」

「お前の彼女寝取ってやる」

「おまっ……。どういう感情で……」

55話 お決まりじゃんけん→←53話 ノーカン

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す