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とりあえず桶から鞘を出し水をバケツに移して、突き刺さっていた刀を引き抜く。

水の中に長々浸っていたから当然だが所々サビている。他にも刃こぼれやヒビも多く見られるが、折れているわけではなさそうだ。
長らく放置されていたブラック本丸の跡地、という風に聞かされていたが……もしかしたらこの刀は手入れをすればまだどうにかなったりするんだろうか。
そんなことは初心者の私には分からない。
手入れ部屋に持っていくだけ持って行って見よう。となればまずは場所を探さなければ。
刀を鞘にしまい、担ぐように持ち上げて反対の手でバケツを持ち上げる。

「おも……明日は絶対筋肉痛だ、確定」

手頃な縁側に上がり、ぐるりと一周するように回ると半分を過ぎたのではというところで薄汚れた木札が見えた。

「『手入れ部屋』……だろう多分。入ります」

両手が塞がりノックができないので、声を掛けてから足で襖を開ける。
開けた後にバケツを置けば良かったな、と思った。もう遅いとは思いながらバケツを下ろす。

中も例に漏れず汚れていたが、ちゃんと機能はしているようだった。やっぱり私が審神者としてここに来ているから必要な機能はひと通り使えるようになっているんだろうか。
イマイチ自分のこの本丸での立ち位置が掴みにくいが、私が来たことでまた本丸としてこの廃墟が動き始めてくれたならそれはありがたいことだ。

資材も、確認してみたら大量にこそないがそこそこはある。廃墟であるこの本丸ではまだ当分持つだろう。
物は試しだ、と資材と刀を預けるとしっかり残り時間が表示されたのでこれは……成功?
しばらく不安で眺めていると、少しずつだが綺麗になっている。これは成功だろう。安心だ。

あとは任せていいだろうと判断し、バケツを持って外へ降り、玄関まで回って拠点へ戻った。
私は私でこの大きな部屋を綺麗にしなきゃ。
想像するだけで億劫だが、これが綺麗になったら大きな自由空間が得られる、と自分を奮い立たせ箒を握りしめた。


「終わっ──たぁ…………!」

綺麗になった部屋へ大の字になって寝転がる。
換気のために開けた障子から外を見ると、空は既に鮮やかな橙に染まっていた。

部屋が大きいせいで酷く疲れた。今日はもう風呂に入って寝よう……そこまで考えて固まった。
大きな本丸の大きなお風呂。放置されていたのは一緒。つまり綺麗であるはずはなく。

これから始まる大浴場清掃に思わずため息がでた。

三→←一



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作者名:朔夜 | 作者ホームページ:無し  
作成日時:2020年3月16日 23時

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