45 ページ45
店を出すに至った理由をあっさり明かした。
智はにっこり笑って
「知ってる。
昔から優しかったもんね。
お陰で皆ここに来て、わぁーって言えてるだろ」
にっこりからにこにこに変わった。
「それから後に続けぇーーってそんな店が増えたよね。
ありがと」
「別におまえの為じゃないぞ。
皆の為だって」
「だから皆を代表して、ありがと。
で、おかわり」
「まだ飲むか？」
「飲むよ。
今度は甘っまいのぉ〜」
「はいはい……ド甘いのにしてやる」
「へへへぇ」
それでも智は楽しそうに笑っている。
智自身は店に来て、わぁーとは言わないがふわふわ笑って飲んでいる。
肩の力を抜いてリラックスしているのがわかる。
智の行き着けの店のオーナーたちが勝手知ったる元ナイトだから。
特にこの店のオーナーは智が拾われた頃、ナイトをやっていて色々教えてくれた人間の１人だ。
甘えたい放題でふわふわしている。
それを知っているからオーナーも智の好きにさせて、その穏やかな笑みを見ている。
「あのちっちゃいガリガリの野生児が今じゃクイーンか……」
「ちっちゃい言うな」
「ああ、大きくなったなった。
酒も飲めるしな」
信じられない境遇て育った子どもは回りの人間に家族の大切さを教え、愛された。
店から離れても出会える場所を用意し甘やかす。
智はそれに遠慮なく甘える。
本当に甘えたい時に甘えられなかった子どもに当時与えて貰えなかった愛情を惜し気もなく与える大人たち。
与えられた子どもは根が素直だったから受け取ったそれをそのまま返す子だった。
愛情を持って接すれば拙いながらも愛情を持って甘えるのだ。
それが嬉しくてまた愛情をかける。
結果……ずぶずぶに甘やかす大人達が増えた。
それを見て彼に接した後輩たちも何故か甘やかした。
育った子どもは甘えん坊の引っ付き虫となった。
「智、これ……
あちらのお客様からだ」
「へ？」
目の前に置かれたグラス。
映画やドラマの中でしか見たことのないシーンがそこにあった。
バーテンダーに言われてあちらを見ると……
「櫻井…翔……マジか」
爽やかに微笑んで軽く手を振る櫻井翔がいた。
……そして大爆笑……
彼の笑いのツボはわからない。
カウンターだけの小さなバーに智の大爆笑の声が響く。
「ま、マジ……こんなん…する人……いるんだ」
笑いながら途切れ途切れに言った自分の台詞にまた笑ってしまう。
「し、死ぬ……」
「笑い過ぎだ……」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 156人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：蒼羽
| 作成日時：2020年2月10日 8時
