5 ページ5
扉を開くと案の定ややこしい奴がいた。
何故、おまえがしげさんに頼んだ食事を持って来るんだ？
「なんだよ、俺は偶々、食堂でメシ食ってたの。
そこに智から電話があってしげさん忙しいから俺が善意で宅配係を引き受けたんだよ」
良いことしてんだよ……とばかりに薄っぺらな胸を張る。
「ありがとう」
と食事だけ受け取ろうとすると
「智が、ちゃんと食べたか確認しないと。
雅紀のお腹に入るかもしんないし」
「俺は食べて来たばかりだから食べないよ。
ほら、お花ちゃんは自分のフロアに戻りな」
「お花ちゃん言うなや。
和也だし！」
食い下がるのを問答無用の文句を言って下がらせる。
本来、余程の用事か、こっちが呼ばない限り上がって来る事は許されない。
まぁ、この部屋の主は許してしまうから、こうやって調子に乗ってやって来る奴がいるのだが……
「雅紀、まだぁ」
後ろから催促の声が掛かる。
溜め息と共に目の前のトレイを掠め取り、持って来た和也の頭を撫でる。
「ご苦労さん」
ドアを速やかに閉めてやる。
これ以上ややこしくしたくないのだ。
トレイを持って寝室に戻る。
久し振りに持つトレイ……思わず懐かしく思ってしまう。
寝室の扉をノックして返事を待たずに開ける。
「お待たせ。
智の分もかな？
小さめだけど家庭用土鍋で来たよ」
「あ、じゃあ食べる。
しげさんの雑炊……」
ここ、ホスト寮の食堂の主しげさんは鍋の〆か体調不良の時にしか雑炊は作ってくれない。
健康な男子はしっかり米を噛め！
肉と魚と大量野菜！
と一汁三菜をもっとうに日夜、彼らの食生活を守っている。
彼もまたホストだった。
寮に食事がなく、20代男子の不規則不栄養な食事を嘆き、早々にホストを引退してオーナーに熱く語って食堂をオープンした。
好き嫌い、お残しは許しまへん！
を合言葉に常にしげさん自身も精進しながら美味しい食事を提供している。
「彼、動けるならリビング行く？」
「ああ、行く」
意地か？
行くと言い切って立ち上がるがふらふらだ。
智がさっと肩を貸す。
肩を貸された方は自分より小柄な彼を見る。
「おまえより体力も力もあるよ」
見られた意味を理解してにやりと笑う。
ホストは体力命だ。
栄養失調でふらふらな人間くらい余裕で支えられる。
「あ、雅紀。
こいつに服を貸してやってよ」
「ああ、いいよ
智のじゃ入らなそうだもんね」
「そうだよ！」
ぷいって不貞腐れる。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 156人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：蒼羽
| 作成日時：2020年2月10日 8時
