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少し硬めの抱き枕を抱き締め直す。
ふわふわな毛が、甘いけどしつこくない柔らかな香とともに鼻腔を擽る。
抱き枕がしがみついてくる。
………しがみつく？
枕が？
でも目はまだ開かない。
「起きてよ、ごはん食べよう」
まだいらない。
寝かせて……
「智、ごはんだってば」
……俺は智じゃない。
だったら寝てていい？
「もう仕方ないなぁ」
何が仕方ない？
抱き枕が引っ張られる。
仕方なく薄目を開ける。
………………
うっすら開いた視界に飛び込んで来たのは……
………昨日からこんなんばっかり見てるような気がするのは夢？
「んん〜〜」
「起きた？」
「……起きた……
けど動けない……」
「引っ付き魔の引っ付き虫は智だけじゃないみたいだね。
潤、智を離してよ。
それジャストフィットだけど抱き枕じゃなくて智だからね」
容赦なくべりっと引き剥がされる。
「なんで一緒に寝てるかなぁ。
もう一個部屋あるだろ」
「ちょっと熱っぽいかなぁって気にしてたら寝てた」
……主語はない。
「そう？」
だが話は通じている。
潤が高くはないが熱があるようなので様子を見ているうちに智は眠ってしまったようだ。
起こしに来た雅紀が潤の額に触れる。
「あぁ〜ちょっとあるかな。
ドクターに呼んどく？
急転直下からの急転換だからね。
疲れたかな」
額に触れた手でそのまま髪を優しく撫でる。
「お坊ちゃまだもんなぁ。
当たり前がなくなるなんて誰も思わないしなぁ。
でも生きなきゃなんないしなぁ」
「雅紀……」
不意に雅紀は背中が温かくなるのを感じる。
引っ付き虫は自分が引っ付きたい時だけじゃなく相手がそうして欲しい時も引っ付いてくれる。
引っ付いて欲しい自覚がなくても……
何かを感じて引っ付いてくれるのだ。
何も言わず……そっと。
その温もりに安心する。
気持ちが落ち着いてほつこり温かくなる。
「ありがとね。
潤も俺と同じなんだなぁ…って思ったんだ」
「雅紀は優しいね」
……あなた程ではないよ。
そう言ったらあなたはきっと真っ赤になって照れちゃうね。
そんなあなたが可愛いけど拗ねちゃうから言わないけど。
心の中で呟いた雅紀は自分の腹に回っている智の手に自分の手を重ねる。
自分の方が辛かった筈なのに、その辛さが当たり前だったから麻痺してしまった人。
自覚してなくても辛かったのは事実で、人の辛さには敏感に感じとって引っ付き魔になる。
その温もりに皆、癒される。
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作者名：蒼羽
| 作成日時：2020年2月10日 8時
