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「おまえにサービスだな。
高いぞ。
後で吹っ掛けられるから気をつけとけよ」
「えっ」
びびりながら下を見るとニヤリと笑うジョーカーと目が合ったような気がする。
マジックミラーじゃないのか？
そのジョーカーは仰々しく片手を広げもう片方は胸元に置き頭を下げている。
そこへ漸くキングが姿を現す。
一歩一歩ゆっくりと降りてくる。
それだけで店内は静かになる。
圧倒的な存在感。
階段を降りきると片手を上げ、腕を下げると同時に頭も下げる。
そして自分の客の元に歩いて行く。
ジョーカーはその後ろを歩き出し彼もまた自分の客の元に向かう。
１年前……
20歳の誕生日に連れられて来た時……
ホストクラブと言うだけで不貞腐れて見ようとはしなかった。
日常の中にない男たちを……
完全に日常から切り離された空間。
完璧に日常を消し去る男たち。
ここで自分はやっていけるのか？
不意に襲い来る漠然とした不安。
突然全てを失った現実。
家を追い出され両親とも連絡がつかない。
携帯が解約されたのか使えない。
数日前までの穏やかな日々。
姉がいるものの息子は自分１人。
時に厳しい時もあったが相対的には甘やかされた自覚はある。
そんな自分に務まるのか？
勉強は嫌いではなかったが必死になった事はなかった。
考えてみれば今まで何かに本気になった事があっただろうか？
「何したの？」
「なんもしてねぇわ。
急に自分の世界に入って行ったんだよ」
「何か言った？」
「言ってない。
けどキングとジョーカーを見た」
「………」
いつの間にか戻って来た智が潤の隣に座る。
自分の世界に行ってしまった潤の目の前で手をヒラヒラするが戻って来ない。
なので潤の両頬をがしっと掴んで……
……………
「……………んっ〜〜」
「やめろ……
引っ付き魔……別の世界に行くぞ。
ほら、俺に引っ付いとけ」
引き剥がされ、光一の膝の上に置かれる。
「大丈夫か？
悪いな、こいつどうしようもなく引っ付き魔なんだよ」
引っ付く場所が大問題だろ。
と呆然としながら心の中で突っ込む。
「一仕事毎にこれだからな。
まぁ慣れてくれ」
「…………」
別の不安が頭を支配する。
これが教育係？
見ると膝に抱えられたまま光一の肩にこてんと頭を乗っけている。
まるで赤ん坊だ。
その大きな赤ん坊は背中を優しく撫でられて……うっとりしている。
「無理言って悪かったな。
どうしたっておまえしか浮かばないんだよ」
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作者名：蒼羽
| 作成日時：2020年2月10日 8時
