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各国、各業界のトップクラスの人間が集まっていた。
自分もその中にいると震えた。
今まで頑張って来た事に誇りを持てた。
勢いで恐ろしい程の入会金と年間費を支払った。
そして来る度に支払う金額に、妻と月に一度の楽しみにしようと決めた。
その楽しみの一つがナイトと呼ばれるホストと踊る事。
妻は社交ダンスを習い、時折夫を相手に家でも練習をした。
贅沢に慣れてない妻は何枚か買ったドレスを自分で何度もリメイクした。
「お上手ですね。
とても素敵ですよ」
アクセサリーも殆どがイミテーションだ。
「付けてらっしゃる方が本物なら本物です。
ここは贅沢を楽しんで頂いても宜しいですが、心を癒して頂く方が嬉しいです」
常に優しく穏やかな声と微笑みを向けるホストたち。
そして妻が先立ったのは数年前。
妻との思い出しかないここに来る事が出来なかった。
会員更新の案内が来て、辞めようと思った。
しかし妻との思い出も無くなってしまいそうで出来なかった。
更新して数ヶ月振りに訪れた自分に変わらぬ微笑みと言葉を掛けてくれた。
ホストたちは嫌な顔一つせず妻の思い出話を聞いてくれる。
今ではここで妻との思い出を語るのが月に一度の楽しみだ。
隠居した身では自由になる金額は少なかったが、他に使う事もないので問題ない。
そんな時に出会ったナインと呼ばれるホスト。
ここはトランプの数字、絵札が名前だ。
小柄でちょっと他とは雰囲気の違う彼が何故だか孫のように可愛く思えた。
過去に思いを馳せていると回りが騒めく。
店内の奥……階段に２人の美丈夫が並んでいた。
「おお……
一丁前に雰囲気を出しとる」
長身の威圧的な男前と横に並ぶふわりとした美人。
この店でキングとクイーンと呼ばれる２人だ。
他のホストとは圧倒的に違う存在感。
その２人が並んで階段を降り、下まで来るとそれぞれに別れる。
そして……クイーンが目の前で立ち止まり手を差し出した。
「………様、１曲いかがですか？」
「この爺とか？」
微笑みながら頷かれ年甲斐もなく手を取ってしまった。
妻と最後に踊ったのは何時だったか。
遠い昔のような気もするが何となく踊れるものだ。
女性役なのに自分をリードする彼の力量か……
ここでは見るだけだった妻の姿が鮮やかに甦る。
あっと言う間だったが、もう充分だ。
充分、幸せだった。
「ありがとう……」
礼を言うとクイーンは艶やかに微笑んだ……
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作者名：蒼羽
| 作成日時：2020年2月10日 8時
