８ ページ31
そう……そんな言葉はいらないんだ。
必要ない。
ろくな事ない。
あいつだってそんな事言ってた。
『やっぱ可愛いね』
思い出すと体が震えた。
もう出すものないとわかっているのに込み上げる吐き気。
「大丈夫？
もう１回トイレ行く？」
きっと何も出ない。
だから行くだけ無駄だ。
首を横に振り、震える自分の体をぎゅっと抱き締めた……
「トイレ行かないなら横になりな。
ちょっと熱あるっぽいから。
おでこの冷えピタ……温くなってるのかな？
気付かなかった？」
言われて額に触れると確かに貼ってあった。
「ありがとう」
「家、知られてると不味いから熱が下がるまで、うちにいていいからさ」
「でも…迷惑だよ」
「家に帰してまた襲われたなんて後味悪過ぎるよ」
そんな風に言われたら怖過ぎて頷くしかなかった。
結局……３日程、熱が下がらず潤の世話になった。
熱に魘される中、松本くんって呼んでたら
「長くて呼びにくいだろ？
潤でいいよ。
俺も大野くんの事、智って呼ぶしさ」
そう言われた。
熱が下がって家に帰る事にした日……念のためと潤は付いて来てくれた。
そして………見つけてしまった。
あの男を。
マンションの下、俺の部屋付近を見上げていた。
部屋までバレてるんだ………そう思ったら寒気と吐き気が同時にやって来た。
「今日は諦めよう」
潤の言葉に頷くしかできなかった。
「部屋、余ってるし、このままここで暮らす？
家賃折半でさ。
まぁ、うちは親が出してるんだけどね。
１人で出歩くのも怖いだろうし、あの家には戻れないだろ？」
「でも……これ以上迷惑かけられないよ」
散々、迷惑をかけているのに……これ以上は駄目だ。
わかってても恐怖は消えない。
「家事できる？」
「多少は……」
「なら交代でしよう。
そうすれば楽だしさ。
な、そうしよう」
優しい笑顔に俺は頷いた。
荷物は潤が車を持っているから車で行って奴がいないのを確認してから少しずつ運び出した。
長居するのは怖いから車に乗る程度の荷物だけを運び出し、大きな荷物は最後…買い取り業者に頼んで全て処分してもらった。
家事はなるべく俺がするようにした。
家賃折半してるとは言え居候の身だから。
大学へは一緒に行って帰りも時間が合えば一緒に帰るようにしてくれた。
潤の家は大学から元の俺の家とは正反対の場所にあるから奴に会う事はなかった。
あの日、たまたま友人の家から帰る途中の潤に助けられたんだ。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 206人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
蒼羽(プロフ) - 青子さん» 初めまして＆コメントありがとうございます！…もう嬉しすぎます。青子さんのお話もお気に入り入れて何度も読み返させて頂いてます。そんな方からのコメント嬉しすぎます。拙いお話にお付き合いありがとうございます。しかもタニス・リーファンだなんて…頑張れます！ (2021年11月26日 22時) (
レス) id: f9ecf164e6 (このIDを非表示/違反報告)
青子(プロフ) - 今回のラスト、まさかまさかでした。この先があったら、なかなか怖い事になりそう…などと妄想しております。蒼羽さんの作品をこれからも楽しみにしております。モンスターの太郎ちゃん、一郎君兄弟、楽しみにしております。最後にタニス・リーのファンです。 (2021年11月26日 16時) (レス) id: d98076db62 (このIDを非表示/違反報告)
青子(プロフ) - はじめてコメントさせていただきます。蒼羽さんのお話は全部読ませていただいております。毎日の更新本当にありがとうございます。 (2021年11月26日 15時) (レス) id: d98076db62 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：蒼羽
| 作成日時：2020年11月26日 0時
