元相棒と嫉妬 ページ25
目を覚ますと、私は木のもとに横たえられていた。
鈍い痛みを訴える体に鞭を打ちながらゆっくりと起き上がる。
と、私の目に飛び込んできたのは、ありえないほどに巨大でおぞましい生物と――それに立ち向かう中原先輩だった。
だが何か様子がおかしい。
そう、どこか理性を失ったような……。
「やあ、お目覚めかな」
ふいに頭上から不快な声が降ってくる。太宰だ。
「おい貴様、あれは何だ。中原先輩の様子がおかしいのは何故だ」
「いきなり質問攻めかい? 熱烈だねえ」
「やかましい」
どうしてこいつはこうも人の神経を逆撫でするのだろうか。
心底ムカつく。
「あの怪物はラヴクラフトさ。ほら、さっき君が戦っていた彼だよ」
「異能……ではないんだな。異能ならとっくに貴様が止めているはずだ」
「そうそう。察しがいいね。で、中也の方はね
あれが中也の異能の本当の姿。ただし放っておくと死んじゃうって感じ」
ほぼ反射的に掴みかかっていた。
こいつは今、何と言った?
死ぬ? 中原先輩が?
「何故、何故止めなかった!!」
太宰はへらへらした顔のまま、私の怒りをまったく意に介していない。
「落ち着きなよ。私の異能を忘れちゃった?
私たちはね、元相棒なんだ。気に食わないけど。
あの状態――『汚濁』を使った中也が敵を殲滅し、私がブレーキをかける。
『双黒』って聞いたことない? それが私たちの呼び名」
だから安心していいよ。
そう言って奴はニコリと笑った。
元相棒。
中原先輩と、太宰治が。
呆然とする私をよそに、間もなくラヴクラフトは撃退され、太宰は宣言通りに中原先輩の異能を解除して帰っていった。
すやすやと眠る中原先輩にそっと近づく。
私の心に、今まで感じたことのない泥のようなものが生じた。
それをきっと、人々は「嫉妬心」と言うのだろう。
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作者名:サーモニウム | 作成日時:2018年6月14日 23時