Remember you ページ11
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『うわ、綺麗………』
思わず声に出してしまうほど、薔薇園の薔薇たちはとても綺麗だった。
濃いピンク色のグレースクイーン、透けるような桃色のザ・ウェッジウッド・ローズにパウルクレー、白にほんのりオレンジがかったジェヌヴィウェーヴ・オルシ、純白のビブ・ラ・マリエ……
時折風に揺れる彼女たちが、花が好きな私を魅了するのは容易いことだった。
可憐で上品で、気高い雰囲気を持っていて、でもどこか儚げ。
私は見惚れてしまった。
ふらふらと吸い寄せられるように薔薇の植えてあるところに近づいて、段差に腰を下ろす。
ふっと息をついた瞬間、安心してしまったのか、引っ込めたはずの涙が頬を伝い、ワンピースに染みを作った。
一度出てきたそれは止まることを知らず、もっともっとと私を急かすように、後から後からどんどん出てくる。
ドクン、ドクンと心臓の音が私の脳を支配した。
お父さん、お母さん…………。
『……っ、う、ぅ、ひっ、ぅ、』
涙と一緒に嗚咽が漏れた。
泣くのは嫌い、思い出すから。
5年前の今日のことを思い出すから。
狂ったように泣いてた、あの時を思い出してしまうから。
大好き、だったのに。
なんで私の大好きな人たちは、私の手の届かないようなところに行っちゃうの。
いやだ、置いていかないでよ。
………私も、そっちに行きたい。
何度そう思ったことだろう。
でも、私の両親の友人だったこの屋敷の御主人さまが、身寄りのない私を引き取って、働かせてくださった。
性別を隠して、4兄弟に仕える執事として。
それで毎日がだんだん楽しくなってきて、素直になれた。
だけど、毎年この日になると、どうしても思い出してしまう。
優しかった貴方たちを。
もう戻ってこない、私の両親を。
喉の奥が締め付けられたように痛くなって、更に嗚咽が漏れる。
泣くな、泣くな泣くな。
ああもう、なんで涙止まらないの。
空を見上げて月を眺めても零れてくるの。
どうすることもできなくて、涙が枯れるまで待つしかなかった。
「………誰だ?」
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kne(プロフ) - 続き楽しみです。 (2021年9月14日 0時) (レス) id: ee34aec55d (このIDを非表示/違反報告)
れい(プロフ) - リスさん» リスさんなんですね!私はこたぬですが基本的に箱推しです (2021年7月4日 12時) (レス) id: 79c7e82e9a (このIDを非表示/違反報告)
れい(プロフ) - ぱるむさん» お返事が遅くなってしまい申し訳ありません汗 ありがとうございます! 今リメイク版を作成している最中なので、もうしばらくお待ちいただけると嬉しいです (2021年7月4日 12時) (レス) id: 79c7e82e9a (このIDを非表示/違反報告)
れい(プロフ) - ランデブーさん» ありがとうございます!そう言ってもらえてとても嬉しいです (2021年7月4日 12時) (レス) id: 79c7e82e9a (このIDを非表示/違反報告)
リス - 私も志麻リスです! (2021年6月24日 22時) (レス) id: 016461b9aa (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:よる | 作成日時:2020年7月30日 16時