ドラマーと元.天才ドラマー (ページ3)

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俺はバンドハウスより奥にある古ぼけた喫茶店に彼女を連れていった。

『何飲みますか？』

カウンターに腰掛ける。

慶「あ、じゃあ…カフェラテで…」

『すいません。カフェラテとブラック一つ。』

畏まりました、とマスターは珈琲を煎れだした。

『慶光院さんって、何か怪我してましたっけ？』

そう聞くと、彼女は顔をしかめる。

マズいことでも聞いてしまったのか、と俺は思い、

『あ、いや。話したくなかったら別にいいんですよ？』

慶「ただ単に、先天性の病気が悪化したところにドラムの叩きすぎで炎症を起こしたんです。」

笑えますよね、と彼女は自虐するように哂った。

それを続けるように

慶「医者からはもう二度とドラムは叩けないって宣告されて、親からも見放されたんです。」

ドラム、続けたかったなぁ…と呟く彼女は

今にも壊れそうなほど儚く見えた。

慶「もう私は天才ドラマーなんかじゃないですよ。ただの落ちぶれた元ドラマーです。」

『…それはちゃうやん。』

俺はそう口走っていて、

『俺は、一回しか共演したことないから、慶光院さんの事分かり切った訳ちゃうけど、めっちゃ思いっきり叩いて、終わった時に見せるあの顔に…俺は一目惚れしてん！』

はっ、として俺は口をふさいだ。

彼女はまるで林檎のように真っ赤だった。

『あぁぁぁ！ごめんなさい！今のは忘れてもらってもいいんで！』

慶「忘れられる訳、無いじゃないですか…」

真っ赤な顔をしたに向けて、彼女は言う。

慶「がむしゃらなのに、すごく正確で、叩き切った時のあの誇らしげな顔…忘れられる訳、無いですよ…」

へ…？

こんな運命あるもんなんや、と思った。

『俺、ちゃんと言う。力強いドラムの叩きようと、終わった後に見せた顔に一目惚れしました。付きおうて下さい。』

へこったれな俺の渾身の告白やった。

慶「……こちらこそ、よろしく、お願い、します。」

真っ赤な顔で小さくつぶやいた彼女。

ここから、俺らの付き合いが始まった。