もしかして、あの姿は…? ページ7
結局あの打席は盛大な空振り三振だった。
ここのところ調子がよかっただけに自分でも首を傾げたくなるけど、もちろん理由は分かってる。
クラブハウスの駐車場に停めた車に乗り込む。
数年前に免許を取得して、たまに運転することはあるけど、今日は一平さんにお願いしちゃお。
窓の外を流れる景色を眺める。
エンゼルスタジアムの近くは、夕方である今ぐらいの時間は特に綺麗だ。
鮮やかなオレンジに光る空。
この空は、日本にも繋がっているんだよな。
日本は今は明け方くらいかな。
Aと最後に会った日は、頭の上に大きな月が浮かんでいた。
あのとき、月だけが俺らふたりを見ていた。
「………ん?」
両側に続く整った歩道。
こちらに向かって歩いている姿に僅かな既視感。
歩いている男の人はちらりと俺のほうを見た気もするけど、こちらは車。
あっという間に通り過ぎた。
「どうした?」
ちらりとバックミラーを見ながら声をかけてくれる一平さんに、なんでもないと首を振った。
まさか、そんなわけはない。
今朝見た夢のせいだ。
あんな懐かしい夢なんか見たから。
Aに見えたんだ。
でも俺は6年在籍したエンゼルスとの付き合いが今後どうなっていくのか、とても苦しい選択を迫られていたせいもあって、あの日見かけた姿のことは頭から抜け落ちていた。
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作者名:咲笑 | 作成日時:2024年2月26日 16時