この腕が、好きすぎて。 ページ44
ぐらぐらと揺れる視界に突然映り込んできたAの顔。
今までで一番切羽詰まったような、深刻そうな表情で俺を見つめている。
Aは俺の身体を抱き寄せるようにすると、きつくきつく抱き締めてくれた。
拒むことなんてできない。
離れなきゃって分かっているはずなのに、この腕が好きすぎる。
「A……、」
「翔平、部屋に戻ろう。」
聞きたいことは沢山あった。
なんでここに居るの?
しばらくはロスで仕事すると言っていたのに。
ここに戻ってきて大丈夫なの?
平野は、放っておいていいの?
Aはその場で一平さんたちに連絡を取ってくれて、このまま部屋に帰ることになった。
俺の立ち眩みはだいぶよくなってきたのは、Aが居てくれるから?
Aは自分が着ていたジャージを俺の肩にかけると、腰に腕を回して身体を支えてくれた。
ゆっくりと立ち上がると再び抱き締められる。
「施設の外には結構メディアが居るから、そこを抜けるときだけは頑張って。」
耳元で優しく紡がれる言葉に素直に頷くと、俺はAと一緒にゲートへと向かった。
「ショーヘイ、今日はもう終わりか?」
「どこか調子が悪いのか?」
ゲートから出るときはAの言うとおり複数のメディアが居て、予定よりかなり早く切り上げる俺に矢継ぎ早に質問が飛ぶ。
光るフラッシュに目が眩んで、思わず手で目元を隠すとさらにそれを撮ろうとカメラを向けられて内心焦る。
「“ごめんね、ちょっと急いでるんだ。”」
Aは俺の肩を抱き寄せるようにして足早にそこから離れる。
小さな声で「ごめん」と言うと、優しく頭を撫でられた。
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作者名:咲笑 | 作成日時:2024年2月26日 16時