どんなときも、思い浮かべるのは。 ページ42
Aが息を呑む。
その様子を感じながら、俺は一方的に電話を切った。
それから眠れるはずもなく、身体のすべての水分が抜けるんじゃないかってくらい泣いた。
すっかり朝日が部屋を包み込んだころ、鉛のように重くなった身体を起こしてカーテンを開けた。
「……野球なんてしたくない、」
Aがこんな言葉聞いたら怒るだろうな。
……でももう関係ないか。
どんな考えもAだったらどういう反応するかなって思ってしまう。
そんなことも、もうやめなければ。
トレーニングが始まるまであと三時間くらいか。
眠気はまったくないけど、せめて身体を休ませようとベッドに横になった。
ぼんやりと天井を見つめる。
「…翔平、好きだよ。」
「やっぱり野球やってる姿見るとワクワクするよなー。」
「俺も野球やりたくなってくる。」
「俺ね、勝手にお前に夢を乗せて見てるんだよ。」
「愛してるよ、翔平。」
このベッドの上でも、沢山話をした。
ふざけてAが俺を擽ってきたときもあれば、真面目な話もした。
もちろん甘い時間だって過ごした。
世界で一番、俺が幸せだと思った。
こんな思いを、今平野は感じているんだろう。
それが許せなかった。
……というより、こんなふうに考えてしまう自分が何より嫌だった。
気が付けばそろそろ準備をしなければならない時間。
よろよろとシャワールームに入って、頭から水を被る。
最低だな、こんなんでプロとか言えない。
乱暴に身体の水分を拭うと、適当に服を着てドアを開ける。
身体の怠さはまったく取れていない。
本当ならトレーニングができる状態ではないことくらい明らかなんだけど、何かしてないと自分が壊れそうだったから。
なるべくいつもどおりに。
ロビーで待ってくれていた一平さんの元へ歩み寄って「おはようございます」と言った。
振り返って俺を見た一平さんは、目玉が落ちそうなくらい目を見開いた。
「……翔平、どうした、」
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作者名：咲笑 | 作成日時：2024年2月26日 16時
