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電話の向こうに居たのは、 ページ40

「…誰?大谷くん?」


電話の向こうから聞こえてきた声。
そして続けて布が擦れるような音。

ふたりがどこに居るのか、嫌でも想像がつく。
嫌な汗が背中を流れた。


「A…、何、してるの、?」


こんなに声が震えて情けない。
指先が冷たくなって、カタカタと震えてスマホすらうまく持てない。


気になるけど聞きたくない。
こんなにAと話すのが怖いと思うときなんてなかった。


「…あ、いや、翔平、」

「A、いつまで話してるの?」


再び聞こえてきた声に思わずスマホをベッドへ放り投げて耳を塞いだ。

気が付けば電話は切れていた。



ベッドに倒れ込んで目を閉じると、さっき聞いた声がすぐそこでもう一度聞こえる。
布団を頭まで被ると次に頭に浮かんだのは、このベッドで戯れたAの姿。

経験のない俺を優しく抱き締めて、キスをして、そして。


「…っ、…A、」


俺しか知らないと思っていた優しいAは、もう平野のものになったのかな。

俺が悩んでいるとすぐに気付いてくれて。
背中に手を添えて優しく撫でながら顔を覗き込むAに何度も救われた。

エマに見つかりながらもこっそりキスをしたり、愛情たっぷりに俺を支えてくれたAは、もう平野を見てるのかな。


……絶対に黒、だろ。
Aは平野と今までベッドに居て、俺としたみたいに…。

次々と溢れる涙はシーツに落ちて、冷たく濡れていく。
Aの存在が、俺にとってどれだけ大きくなっていたのか。
分かっていたつもりが分かってなかったんだな。


「A、会いたい……、」


誰にも聞かせられないくらい震えて情けなく呟いた声は、すっかり冷え切った部屋に吸い込まれて消えた。


.

もう、別れよう。→←時間は過ぎていくばかり。



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作者名:咲笑 | 作成日時:2024年2月26日 16時

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