お前が伝えるべきだろう？ ページ38
「俺も行く。」
「ダメ。」
何度も行き交うこの会話。
Aは大体のことは「しょうがないな」って言ってくれるんだけど、今回ばかりは頷かない。
でもさ、
Aが危ない目に遭うくらいなら、
「……俺、別にバレてもいいよ。」
「何言ってんだよ。」
「なんで？恋人が居ますって言っちゃいけないの？俺恋愛禁止のアイドルじゃないよ？」
「そうだけど…。」
「リークされたって別に後ろめたいことなんて何もないよ。俺は真剣にAと付き合ってるし、隠したいことなんてない。」
「……翔平。」
Aは愛しそうに俺の名前を呼ぶと頬に手を添えてキスをした。
「分かってるよ、翔平がそう思ってくれてるの。俺も同じ気持ち。」
だからこそ、あいつにバラされたくないんだよ。
公にするなら、お前の言葉で、お前が伝えるべきだろ。
Aの言葉は一本筋が通っていて、納得するしかない正しさを持っていた。
「お前は何も心配しなくていいから。俺のこと信じて待ってて。」
Aは再び頭を撫でると離れる。
もう、俺は何もできない。
黙り込む俺に柔らかく微笑んでから「マジで怪我だけは勘弁な」と言って歩き出した。
Aの背中。
「………A、」
俺の言葉に振り返る名前の元へ思わず駆け寄ってきつく抱き締める。
「俺はAと別れないからね。」
「ふは、俺捨てられない？」
「そんなわけ…！」
Aは楽しそうに笑いながら俺の背中をとんとんと叩いてから、今度こそ背中を向けて歩き出した。
「背中向けないでよ、」
俺の言葉に再び振り向いたAは声に出さずに「愛してるよ」と言った。
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作者名：咲笑 | 作成日時：2024年2月26日 16時
