君を睨む。 ページ36
「翔平、ちょっといい?」
午前のトレーニングを終えて、一度引き上げようとしていたとき。
俺を待っていたのかロッカールームの前でAに話しかけられた。
「うん、なに?」
「俺さ、ちょっとクラブハウス戻るわ。」
「へ!?」
キャンプが始まって約1ヶ月。
より実践的なスケジュールに変わってきたころ、Aはロサンゼルスに戻ると言う。
「どうして急に?」
「ちょっとね。」
「仕事?」
「うーん…、まぁ…。」
……絶対嘘だ。
「とりあえず今日のトレーニング終わったら話そ。」
「いや、もう出るんだよね。」
「ええ!?」
あまりの驚きに言葉を失っていると、俺の頭を優しく撫でて「ごめん」と言った。
そして眉を下げて笑いながら、
「翔平、怪我には気を付けてな?」
「…ちょっと待って。」
俺は思わずAの腕を掴んだ。
「なんでそんなもう会えないみたいな感じなの?」
「そんなことないよ。」
「じゃあなんで寂しそうな顔してんの?」
Aは一瞬はっとした顔をしたけど、俺に掴まれている腕を見つめる。
「いや、そんなことないって…。」
「…なに。何があったの。」
Aをじっと見つめる。
怪我して野球を辞めるときでさえこんな顔はしなかった。
絶対にこの手は離せない。
「翔平、ごめん。飛行機の時間あるから。」
少し強引に離そうとするAを思わず睨む。
そんなAが許せなくて、俺は掴んだ腕を引いて歩き出した。
「おい、翔平、」
「そんなあからさまに何かあるの隠されて、俺野球に集中できないんだけど。」
俺のこの言葉は、Aには効いたみたいだった。
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作者名:咲笑 | 作成日時:2024年2月26日 16時