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重要なのは、場所じゃない。 ページ33

この場から動かないまま、平野はAを睨む。
Aは平野の鋭い瞳を受け止めながら、へらりと微笑んだ。


「そうだな。一言では言い表せられない。」


でも、
尊敬してる、そいつのこと。
好きなことを仕事にして、辛いときも楽しいときと変わらずに努力できて。
真っ直ぐで純粋で、少しだけ甘えたで。

「もっとあるけど、平野には教えてあげない。」


Aはあのときみたいに唇に人差し指を添えるとぱちんとウィンクをした。


「…っ、」


平野は唇を噛むと俺のことを睨み付けてから足早に去っていった。



「あー…、疲れた。」


俺の向かいに座り直したAは椅子の背凭れにぐったりと背中を預けた。
何も言えない俺に視線を向けると、いつものように笑いながら席を立つ。

Aの動きを目で追っていると、俺の隣の椅子に座り直した。


「バレちゃったかも。ごめんな?」


Aは悪戯っ子のように笑って、テーブルの下でそっと俺の手を捕まえた。


「あー腹減った。何食べる?」


もう完全に柔らかな雰囲気のA。
でもさっきみたいな姿は初めて見たな。
…なんか、ちょっとドキッとした。


「Aと同じのにする。」

「…なに可愛いこと言ってんの。」


Aはテーブルの下で繋いだ手を揺らしたり、親指で俺の手の甲を撫でたりしながら遊んでいる。
Aと一緒なら、結局何食べても美味しいし。


メニューを覗き込むふりをして、Aの耳元にそっと顔を寄せて、


「早く帰りたくなってる。」

「えっ。」


場所が問題じゃない。
Aと居られれば、どこに居たって幸せ。


.

君が怒った理由。→←初めて聞いた、そんな声。



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作者名:咲笑 | 作成日時:2024年2月26日 16時

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