初めて聞いた、そんな声。 ページ32
「大谷くんも元気？大活躍だね。」
平野はちらりと俺のほうを見ると、まるでついでみたいに話しかけてきた。
「…まぁ、おかげさまで。」
ファンの人が見たら引くんじゃない？ってくらい冷たく言い放ってしまったけど、平野は気にする素振りを見せないどころか立ち止まったまま動こうとしない。
「Aと会うの何年振り？Aが大学卒業する前とかだったから…。」
平野はAの腕に軽く触れたりしながら話し込もうとしている。
Aはというと、にこりともせずに平野を見つめ続けている。
………え？
ここで久しぶりの再会から、恋が芽生えちゃう感じ？
過去に付き合った経験があるふたり。
平野はまだAのことが好きなのは明らかだし。
俺、もしかして邪魔者？
「A、さらにカッコよくなったね！別れたのもったいなかったなぁ。」
平野はまるで俺の存在に気付いていないように振る舞う。
Aのことしか見ていない。
そして平野は俺を無視したままあれこれと話をするけど、聞こえてくる内容はマウントを取っているようなことばかり。
「…ねぇ。久しぶりだし、私も一緒に座ってもいい？」
俺たちの返事をする隙を与えずに、Aの隣の椅子に座ろうとしている。
「……A、俺先に帰る、「…おい待てよ。」
聞いたことのないAの低い声。
明らかに怒りを含んだ棘のある声が聞こえる。
俺は立ちあがろうと腰を少し浮かせた状態でAを見つめる。
「平野、お前そんな奴だった？」
「え…？」
「少なくとも高校のときは空気を壊すような子じゃなかったよ。」
Aは立ち上がると、平野が半分引いた椅子を元に戻した。
「はっきり言わないと分かんなさそうだから言うけどさ。平野とはもう完全に終わったと思ってるし、俺は俺で大切な人と一緒に居るから。」
あのときみたいにされたら困る。
平野は目を見開いたままAを見つめ続けている。
俺はどうしたらいいか分からずに、ただ行く末を見守っている。
「平野は俺のこと忘れて、幸せになってよ。」
な？とやっと笑いながらAは平野の背中をとん、と軽く叩いた。
「大切な人って…、どんな人なの、」
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作者名：咲笑 | 作成日時：2024年2月26日 16時
