大袈裟じゃなく、心配。 ページ30
俺をベッドの隅に座らせると、ドライヤーで髪を乾かしてくれた。
温かい風と優しく髪を撫でるAの指の感覚が心地よくて、そっと目を閉じる。
「…終わり。」
風が止むとAはドライヤーのコードを巻き付けながら洗面所へ戻っていった。
まだA怒ってるかな…。
こんなに気まずい雰囲気は初めてで、どうしたらいいか分からなくなる。
「…翔平。」
ベッドが僅かに軋んで、隣にAが座った。
俺は顔が上げられずに自分の手を見つめ続ける。
すると、わしゃわしゃと頭を撫でられる。
顔を上げると、Aが眉を下げて笑っていた。
「そんな顔すんなよ。俺が虐めてるみたいじゃん。」
「ん…。」
Aが身体を寄せて、こつんと額同士がぶつかる。
「お前が辛い思いしたら、俺だって辛いんだ。」
……人のこと言えないかも知れないけどさ。
お前だったら俺の言ってること、分かるだろ?
Aの言葉に何度も頷く。
そうだ、もう背中を向けないと約束してくれたAに俺も応えないと。
「ごめん。」
「勝手に心配しすぎなのかも知れないけど。」
「そんなことないよ。ちゃんと分かってたはずなのに。ごめん。」
俺の言葉を聞いたAは俺の腕をそっと引いて抱き締めてくれる。
首筋に頬を寄せられる感覚に思わず僅かに口元を緩めた。
「去年お前が手術するってニュース聞いたとき、生きた心地しなかった。」
「そんな大袈裟な…。」
「大袈裟だと思う?」
「…ううん。」
そうだ、Aは心配してくれてた。
Aのくぐもった声を聞いて俺はゆっくりと背中に手を添えた。
「ごめん、A。自覚が足りなかった。」
「ふふ、やっと分かったか。」
俺の背中をとんとんと軽く叩いてから身体を離すAを見つめると、今度は俺が腕を引いてキスをした。
そしてAは、俺の右肘の傷を優しく撫でてくれた。
「このあと撮影でもあんの?」
翌日のトレーニングが終わったあと、しっかりと髪を乾かした。
ついでに軽くセットしてから帰ろうとすると、たまたま鉢合わせしたAが目を丸くした。
「ん?ないよ?」
「やけにカッコよくなってんじゃん。」
俺はいつものふざけたようにAに抱き付くと壁に身体を押し付ける。
そして耳元で、
「しっかり髪乾かしただけ。」
そう呟くと、珍しくAが少し慌てている。
そして小さく「バカ」と言ってから、俺の腕をすり抜けて施設へと帰っていった。
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作者名:咲笑 | 作成日時:2024年2月26日 16時