役に立ちたい。 ページ26
コンコン。
トレーニングのあとにシャワーを浴びてからやってきたのは、Aの部屋。
キャンプ中はこの部屋に滞在しているようだ。
ガチャ。
薄く開いたドアの隙間から覗いたAに「よっ」と声をかけると、大きくドアが開かれる。
「どしたの?」
「遊びに来た。」
「は?」
驚いているAのことはお構いなしに部屋の中へ入る。
それなりの期間を滞在するから、部屋の中は仕事がしやすいようなレイアウトになっていた。
仕事をしていたのか、パソコンの周りには大量の資料が散らばっている。
「あ、ごめん。仕事中だった?」
「んー、でもそろそろ終わろうかなとは思ってる。」
「日中もずっと忙しそうだったじゃん。」
「1週間も休んじゃったからな。それなりに仕事溜まってんだよね。」
パソコンの画面には大きく俺の写真が映し出されていた。
大きくバットを振り抜いて、遠くへ飛んでいく球を見つめている写真だった。
「俺の記事…?」
「そう、情報誌に載せて欲しいってオファーがあったから。」
「Aが書いてんの?」
「そうだよ。」
「読みたい。」
「ダメ。」
まだ出来上がってない。
全体の構成を決めて書き始めたところだから。
「A、勉強もできたよね。」
「なに突然。」
「国語の点数がいつもよかったの覚えてる。」
「あー、いろいろ書くのは好きだね。」
「でもさ、」
俺が来たから、仕事はもう終わろう?
腰に負担がかからないように気を付けながら身体を寄せると、Aは俺の頭を撫でてからパソコンの画面を閉じた。
「い、ててて…。」
「まだそんな痛いんだ。」
「まぁまだ1週間だからな。」
ソファに座るのも、ベッドに寝るのも大変そうだ。
「A、今日退院したんだよね?」
「そうだよ。」
「じゃあひとりで寝るの初めてだ。」
「…病室でひとりで寝てました。」
そういうことじゃなくて!
「誰かのサポートが必要じゃない?」
「……え?」
「俺がトレーニング終わったらAの部屋に来て、お世話してあげる。」
「いえ、結構です。」
は?とか言いながら嬉しそうな顔してるじゃん。
俺はAの腰にそっと手を添えてからキスをした。
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作者名:咲笑 | 作成日時:2024年2月26日 16時