大切にしろよ、その手。 ページ24
Aの頭を抱き締めたまま、どれくらいこうしていたんだろう。
「あのときも、こうしたかった…。」
10年以上前。
俺の前から去るAを引き留めたかった。
Aは何も言わずに俺の胸元に顔を埋めている。
ちょっとでも力を緩めたら、あのときみたいに居なくなってしまう気がして。
「A…、もうどこにも行かないで、」
シーツに流れる涙をそのままに、喉に声を引っかからせながら呟いた。
Aは腕の中で顔を上げると、「バカだな」と笑ってから軽くキスをしてくれた。
優しくAの頬を撫でていると、その手を掴まれた。
その仕草を見守っているとAは眉を寄せて、目の前に俺の手のひらを見せつけてきた。
さっき処置を待っている間に強く握り締めてしまったことによって爪が食い込み、手のひらに血が滲んでいた。
今の今までまったく気になっていなかったけど、Aに言われて鈍い痛みを感じる。
「なんでこんなことになってんの。」
「ずっと強く握っちゃってた。」
「ダメだよ、こんなことしたら。」
「無意識だったもん。」
Aはしょうがないな、と溜め息を吐いてから、そっと手のひらにもキスをくれた。
「大切にしろよ、その手。」
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作者名:咲笑 | 作成日時:2024年2月26日 16時