蘇る悪夢。 ページ22
Aの言葉にすっかり元気を取り戻した俺は、引き続き精力的にトレーニングに励んでいる。
その様子を見にきたAも満足そうに笑っていた。
エマはというと、あれから「Aが翔平に取られた！」と癇癪を起していたけど、Aは笑いながら受け流していて、このやり取りさえ微笑ましいとすら思えるようになった。
あれから数日。
今日もエマが遊びに来ている。
もうエマの何気ない言葉で自分を見失ったりしない。
…大袈裟だと思った？
案外がっつり自分を見失いました。
今日はエマの他に元気な男の子、チャールズ。
エマと同い年くらいだろうか。
ふたりで楽しそうにグラウンドの端を走り回っている。
「チャールズにしといてくれよ…。」
「…エマの婚約者？」
予想外に聞こえた返事に思わずびくりと肩を揺らした。
その肩に顎を乗せて楽しそうに笑うのは、見なくても分かる。
「A、びっくりする。」
「珍しいな、いつもは目ざとく俺を見つけるのに。」
リフレッシュルームで隠れてキスをしてから、Aは俺に対して甘くなった気がする。
隣を歩くときは背中に手を添えてくれたり、俺が話しかけようか迷っていると必ず近寄ってきてくれる。
エマとチャールズが元気に走り回るのも、優しく俺を見守ってくれるAも、今は頭の片隅に置いて。
俺は打撃練習のためにネットの内側に入った。
「相変わらず飛ばすねぇ。」
この日も絶好調だった俺は、5本の柵越え。
投げてくれたチームメイトと軽く会話を交わしてからネットの外に出ると、Aはどこか嬉しそうに話しかけてくれた。
それが嬉しくて緩む口元をグローブで隠しながら歩いていると、
「“おい！危ないぞ！”」
グラウンドに響き渡る焦りを含んだ大声。
高く打ち上がったボールは、グラウンドの端で遊んでいるエマとチャールズに向かっていた。
俺は思わず走り出そうとするも、その前に隣に居たAが駆け出す。
Aは素早くふたりに覆い被さる。
そしてボールはAの腰のあたりを直撃した。
「A…！！」
持っていたバットや水筒を全部放り出して、Aの元へ駆け寄る。
エマとチャールズも半べそをかきながらAの身体を揺すっているけど、そんなのお構いなしに俺はAの身体を抱き寄せた。
「A！大丈夫！？」
腰を押さえたまま倒れ込んだAの顔を覗き込むも、小さく呻くような声が聞こえるだけ。
俺は、あのときの悪夢を思い出していた。
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作者名：咲笑 | 作成日時：2024年2月26日 16時
