それぞれの幸せ。 ページ21
Aは俺を連れて小さなリフレッシュルームへと向かった。
ここは穴場なんだよって言いながらベンチに座るAの横に腰掛けた。
「……翔平、これなに?」
「なにって?」
「なんなの、この微妙に離れた距離は。」
いつもならぴったり横に座るんだけど今はちょっと気まずくて、1メートルくらい離れたところに座った。
Aが俺の腕を掴んでそっと引き寄せるから、素直に従うことにした。
肩が触れるくらい近くに感じるA。
俺の顔を覗き込むようにして見つめてくる視線が少し痛い。
「エマに嫉妬した?」
「そんなんじゃないよ。…あの子が指輪くれたんだ?」
「そうそう。ぶっちゃけアルミだから、もう使えない。」
「捨てたの?」
「そこまで性悪じゃないよ。家に置いてある。」
そこで途切れた会話。
Aはぼんやりと空を見上げている。
「…結婚したいって、思う?」
自然と俯いた先の地面を見つめたまま、何気ない会話のふりをして聞いてみる。
空から俺に視線を移すのが、視界の隅に見える。
「結婚かー。…考えたことないな。」
「エマを見てると、パパになりたいとか思わないの?」
お前はバカだな。
そっと俺の膝に乗ったAの手。
その手を思わず握ると、当たり前のように指先を絡ませてくれた。
「結婚して、子どもができて。そんな生活を幸せに思う人も居れば、自分が愛する人と一緒に居られる時間を幸せに思う人も居る。」
要は、幸せなんて実は曖昧で、人それぞれなんだよ。
誰かの枠に押し込めて測るものじゃない。
「俺は今幸せだよ。心から大切だと思うお前が隣に居てくれてさ。」
愛しさをたっぷり乗せた声で言葉を紡ぐAを見つめると、指を絡ませた手を引かれて。
掠めるだけの、キスをした。
「“あー!私のAとキスしてる!”」
少し遠くから聞こえてくるエマの声。
俺は慌てて身体を離そうとしたけど、Aはそれを許さなかった。
俺の肩を抱き寄せると自分の唇に人差し指を添えて、エマにぱちんとウィンクをする。
「“エマ、今は翔平と幸せを感じてるから静かにしていて。”」
今はエマの騒ぐ声なんて気にならない。
Aのくれた言葉が嬉しくて、嬉しくて。
堪えきれずにAの胸元に顔を埋めた。
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作者名:咲笑 | 作成日時:2024年2月26日 16時