大切な存在が力になる。 ページ19
10年越しに受け取ってもらえた俺の気持ち。
Aは受け取ってくれたけど、ひとつ条件が出されていた。
“Aと付き合うことが野球の妨げになるときは、別れること”
これを飲まないならお前の告白の返事はノーだ。
Aは俺にはっきりと突き付けた。
そんなこと、あるはずもないのに。
Aを邪魔に感じたら、みたいなのがすごく嫌だけど、そんなことには100%ならないって言いきれるから、俺はその条件を飲んだのだった。
あれから俺の調子は右肩上がり。
打撃練習に入れば連続の柵越え、しかも特大。
監督がネットの外側でこっそりプライベートのスマホで撮影するくらい、順調に仕上がってきている。
Aに文句は言わせない。
お前と付き合ったから、さらに調子がいいんだよ。
早くそう自慢したくて、いつもより念入りにトレーニングも行っている。
Aはというと、たまに俺の練習を見にきているけど、なんか普通。
俺はAが見ていてくれると嬉しくて話しかけに行くんだけど、Aから話しかけてくることは滅多にない。
入団会見を終えた直後は怒涛の取材ラッシュだったけど、そのへんはうまくAが調整してくれたおかげで、今ではとても落ち着いている。
それで練習に集中できているんだから、寧ろAの存在は俺にとってプラスでしかないんだけどね。
「あ、A!」
トレーニング後にシャワーを浴びてロッカールームを出たところでAと鉢合わせた。
Aはタブレットやらファイルやらを抱えて忙しそうだけど、聞きたいことがあったんだ。
「Aはキャンプ一緒に行くの?」
「あぁ…、一応行くことになってるよ。」
「俺と同じ時期に入る?」
「うーん、たぶん?」
「やった。向こうでも会えるの嬉しい。」
そんな喜ぶことか?ってAは笑いながら首を傾げていたけど、ぴったりと身体を寄せてから顔を覗き込む。
「だってさ、俺移籍したばっかりだよ?知らない人ばっかりだからAが居てくれると安心する。」
「お前って…、本当よくそんなはっきり言えるよな。」
「なんで?Aだから言ってるんだけど?」
分かってるよ。
Aだって嬉しそうな顔してるもん。
「最近調子よさそうだな。」
「おかげさまで。」
「怪我しないようにな。」
「はーい。もっと調子よくなるよ。」
Aが居てくれるからね!
そう言うとAはさらに笑みを深めてから、小さく「バカ」と言った。
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作者名:咲笑 | 作成日時:2024年2月26日 16時