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ずっと聞きたかったこと。 ページ16

隣の椅子に座ったAは俺の顔を覗き込むようにすると軽く触れるだけのキスをした。
何が起こったのか分からない俺は、ただぱちぱちと瞬きを繰り返すだけ。

そんな俺にAは面白そうに笑った。


「野球に夢中で恋愛は後回しだった?」

「そりゃそうだよ。誰かと付き合う時間なんてなかったもん。それに…、」

「それに…?」

「……Aが、好きだったし…、」


言っている途中から恥ずかしくなって思わず俯く。


「翔平ってさ、本当に…、」


細い指先で顎を掬われると、自然と上を向いた俺にもう一度キスを落とした。
Aの瞳には俺が映っていて、それが堪らなく嬉しかった。


「Aは?…彼女とか、居たの?」


あー…、めんどくさい。
こういうこと聞くの、マジでめんどくさいよね。

でもAはなんでもないように指先で俺の頬を撫でた。


「まぁ大学生のころは。…あ、平野って覚えてる?」

「…俺のライバル。」

「ふはっ、なんでライバルなんだよ。」

「……平野と付き合ったの?」

「俺を追いかけて東京で就職したんだとか言ってさ。その健気さが可愛く思えて。」

「…ふーん。……キスした?」

「お前…、(笑)」


キスはしたよね。
もちろんそれ以上のことも。


「ファーストキス。」

「ん?」

「Aのファーストキスの相手は、平野ってこと?」


聞いてから後悔した。
俺じゃないのは確実なんだから、悲しくなるだけなのに。

ていうか、こんな30手前になってファーストキスの相手に嫉妬するとかどうかしてる。


「俺のファーストキスの相手?」

「いや、やっぱりいい。忘れて。」


俺はこれ以上聞きたくないと顔を逸そうとしたけど。
それを分かっているのか、Aは頬に手を添えて、その動きを阻止した。


「翔平、俺のファーストキスの相手は、」


.

ファーストキスの相手は、→←その条件、飲んだ。



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作者名:咲笑 | 作成日時:2024年2月26日 16時

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