それ以上に、勝ちたかった。 ページ12
「おう。」
個室のドアを開けると、Aが軽く手を上げた。
向かいの席に座って、差し出してくれたメニューに目を通す。
適当に注文してから持参したサプリを飲む。
これが食事の前の定番。
「すげー量だな。」
テーブルの上に広げたサプリに目を丸くするA。
高校のときも少し飲んではいたけど、これより全然少なかったもんな。
俺は飲まないけど、Aはビールを頼んでいた。
気を遣ってソフトドリンクにされたら申し訳ないなって思ったんだけど、そのへんはよく分かってくれてるみたいだ。
「エンゼルスはどうだった？」
ドリンクが到着して乾杯をすると、Aが顔を覗き込むようにして聞いてきた。
なんとなく心の底を読まれそうで怖い。
「楽しかったよ。あのチームのおかげで投げれたし打てた。メジャーに来て初めてのチームがあそこで本当に良かった。」
…でも。
「それ以上に、勝ちたかったんだ？」
やっぱり。
Aは俺の本音を引き出すのが得意だ、昔から。
「負けず嫌いだったもんな、お前は昔から。」
こちらが気持ちよくなるくらいごくごくとビールを飲み干すとすらりとした指をテーブルに置いた。
野球をしていたとは思えないくらい綺麗な指。
もう薬指に鈍く光る指輪はない。
「高校のとき、負けたのは自分のせいだって言い張ってさ。それを今もやってるとしたらって思って、めちゃくちゃ心配してた。」
Aの言葉に思わず視線を下げる。
自分は別にナニモノでもないけど、負けた日はもっと自分が打てていたら、抑えられていたらと思っていたのは事実だ。
「変わってないんだな。しんどいときもあっただろ。」
Aはあのときと変わらない微笑みを浮かべて俺の頭を撫でてくれた。
ここは個室で誰も見ていないし、甘えてもいいか、なんて。
優しく撫でてくれる手にぐりぐりと頭を擦り付けるように揺らした。
するとAは明るく笑って、「相変わらず可愛いな」と言った。
そして俺はずっと気になっていたことを聞いた。
「A、俺の近くに居たくてアメリカに来たって本当？」
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作者名：咲笑 | 作成日時：2024年2月26日 16時
