94 ≪the past≫ ページ46
ガチャリ・・・とカギを回す音がいつもより一段と響いた。
おもむろにドアを引き、中の様子を窺う。
シンと静まり返った暗い部屋は空虚感で満たされていた。
「おかえりなさい」
忍び足でリビングに入ると同時に背後から聞こえた優しい声。
思わず心臓が飛び出しそうになった。
「遅かったんだね」
恐る恐る振り返ると、そこにはパジャマ姿の翔くん。
彼は寝ずに俺の帰りを待っていた。
「あっ、スーツ濡れちゃったね。
タオル持って来るから待ってて」
翔くんはいそいそと風呂場に向かった。
俺はその後ろ姿をただ無言で目で追う。
廊下の電気を点け、玄関を横切った翔くん。
その時、ドアの脇に置いてある女物の傘に気付いて彼は一瞬足を止めた。
翔くんは俺に何も問いたださない。
この傘が誰のものなのか。
どうして俺が朝帰りをしたのか。
「はい」
タオルを手渡され、俺は無言でそれを受け取った。
「雨、なかなか止まないねぇ」
やっぱり翔くんは何も聞かない。
俺を責めることさえしない。
「あったかいお茶でも飲む？」
「いい。
シャワー浴びるし」
「そう・・・。
あ、だったら、コーヒー淹れとくから。
上がったら飲んでよ」
さっきから気を使ってばかりの翔くん。
そんな彼を無視し、俺は黙ったまま風呂場へ逃げ込んだ。
蛇口を捻って熱いお湯を頭から被った。
頭上から足元に流れ落ちるお湯とともに、彼女の肌の感触を消し去りたいと思った。
だけどそれはなかなか消えてくれない。
それどころか、消そうとすればするほど皮膚に纏わり付いて俺を雁字がらめにした。
翔くんは全部気付いてる。
気付いているのに敢えて何も言わないのだ。
罪悪感が重くのしかかった。
俺はどうして翔くんが徹底的に傷付けばいいなんて思ってしまったのだろう・・・。
風呂から出て、髪をタオルで拭きながらリビングに戻った。
テーブルの上には翔くんが淹れてくれた温かいコーヒー。
色違いで買ったマグカップをこんなにも忌々しく思うなんて・・・。
今は飲む気も起こらない。
翔くんはリビングにはいなかった。
きっともう寝室で寝たのだろう。
俺も少し仮眠を取ろうと、ソファに横になった。
とても今のこの状況じゃ翔くんの隣で眠るなんて出来ないから。
色んなことがあり過ぎて、俺はすぐにウトウトしてしまった。
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なつ(プロフ) - 花咲*さん» 花咲*さん、おはようございます！いつもご愛読ありがとう♪しかもいつも感情移入して読んでもらえて感謝感激！この辺で泣いてちゃダメですよ〜！まだ泣き所はご準備してますから。どうぞお楽しみに！！ (2019年10月6日 7時) (
レス) id: 3dbb952a56 (このIDを非表示/違反報告)
花咲*(プロフ) - ｡ﾟ(ﾟ´Д｀ﾟ)ﾟ｡こんな別れ方を二人はしていたのかと思うと切なくて切なくて泣けてきます。なつさんのお話で泣いてばかりですがやっぱりなつさんのお話大好きなので読んでしまいます！その後翔君どうやって生活していてのかも気になるしこの後の展開が楽しみです。 (2019年10月5日 15時) (レス) id: fe81ade62f (このIDを非表示/違反報告)
なつ(プロフ) - まったりやさん» まったりやさん、こんばんは！切なさいっぱいの過去がとうとう明るみに( ﾉД`)これからまた現在編へ戻り、掛け違ったボタンの行方をお楽しみ下さい。ただ今、移行準備の真っ最中です。しばしお待ちを！ (2019年9月11日 1時) (レス) id: 3dbb952a56 (このIDを非表示/違反報告)
まったりや(プロフ) - なつさん、お久しぶりです。切なさと切なさと切〜な〜さと〜♪…あぁ〜大変な過去の出来事ですね〜！お互いの罪悪感と遠慮からなのか、ボタンの掛け違い心のすれ違い…。でも、ここからの展開が、なつさんの作品のクセになるところ。続きを楽しみに待っています。 (2019年9月9日 13時) (レス) id: 6d900dafd3 (このIDを非表示/違反報告)
なつ(プロフ) - smsさん» smsさん、こんばんは！ご無沙汰してます♪とうとう智くんやってしまったよ（泣）この裏切り行為が後の現在編にどう繋がっていくのか、お楽しみに〜！翔くん、記憶を無くしたままも辛いけど、記憶が戻っても辛いね(´；ω；`) (2019年9月3日 23時) (レス) id: 3dbb952a56 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：なつ
| 作成日時：2019年6月11日 0時
