番外篇 「すいチュー」 ページ44
『総悟さん! 総悟さんってば!!』
こっちだこっちだ、と小さく跳ねながら俺を手招く。そんな彼女にふっと笑ってしまい、「今行く」と付いて行った。
周りを見回すと、薄暗い照明に水槽の中で優雅に泳ぐ魚が照らされている。水族館であるここは、何年振りに来たのかってくらい懐かしい。
『見てください!
可愛いアザラシですよ!』
ほら、とAの指差す方を見れば、俺たちをキョトンとしたような目で見ているアザラシ。こっちが見に来てんのに、まるで見られている感じはどこか面白く、年甲斐もなくガラスに手を合わせてしまう。
彼女はアザラシの水槽の前に書かれている説明を熱心に読みながら数回頷き、俺の方へ顔を上げた。
『ここにいるアザラシ、この前まで海に……』
しかし魚ばかりではなく俺も見て欲しくなり、ゆっくりと触れていた唇を離せば、Aは頬を赤く染めて魚のように口をパクパクとさせている。
それに吹き出すと、「もう」と俺を軽く叩いた。
『お兄ちゃんとお姉ちゃんチューしてた!!』
しかし突然大きな声でそう言われ、足元へ視線を落とすとそこには野球帽を被った齢5歳くらいのガキが立っている。
視線を合わせるようにしゃがみ、「なんか文句あるのか」と聞けば面白そうに笑う。
『なんでチューするの?』
『そうだなァ……チューは好きだからすんの』
『じゃあお兄ちゃんはお姉ちゃんのことが好きなの?』
俺たちを交互に見つめる円らな瞳。キラキラしてて、宝石みたいだ。Aは頬を赤らめたまま捻り声を出し、なんて返したらいいか悩んでいる。
『そりゃあねィ。俺は好きな女じゃねーとチューしねェから』
『お姉ちゃんも、お兄ちゃんが好きだからチューするの?』
子供が標的をAに向ければ、彼女は困ったように……いや、照れながら小さく頷く。
そうして俺の横で子供の背の高さくらいにしゃがみ、「好きだよ」と呟いた。
それに納得した子供はやってきた母親に連れていかれ、俺たちはまた二人きりになる。しかしAは膝頭に顔を埋めたまま上げようとしない。
『どうしたんでィ』
『普通に照れてます』
『んじゃ、チューしときやすか?』
『…………はい』
おずおずと顔を上げたAの後頭部に手を回し、呆れるほどチューしてやった。
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美空 - 完結おめでとうございます!とても素敵な作品でした!これからも楽しみにしてます! (2017年8月29日 2時) (レス) id: 611dba761a (このIDを非表示/違反報告)
ハル(プロフ) - ジュリさん» 最高ですか!! ありがとうございます! とっても嬉しいです! あんまりイチャコラを書かなかった作品ですが、ジュリさんがそう言ってくださったのなら良いです! 閲覧とコメントありがとうございました (2017年8月19日 11時) (レス) id: 677c22d7bd (このIDを非表示/違反報告)
ハル(プロフ) - ナナさん» ありがとうございます! 淡々とした夏休みの小さな暇潰しにでもなってくださったら嬉しいです( ´ ∀`) 新作の沖田は甘々ですが、こちらでは書かなかった甘い沖田を書いているので閲覧よろしくお願いします!! (2017年8月19日 11時) (レス) id: 677c22d7bd (このIDを非表示/違反報告)
ジュリ - あぁ最高です! (2017年8月18日 13時) (レス) id: 84c51744c8 (このIDを非表示/違反報告)
ナナ(プロフ) - 凄く良かったです!夢中で読みました!新作も読ませていただきます!!! (2017年8月17日 23時) (レス) id: 12c1829223 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ハル | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/harumemory
作成日時:2017年7月25日 11時