兄貴のお気に入りに恋をした【灰谷竜胆】 (ページ38)

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38.ファーストキスページ38

兄貴のやりそうなことが想像できたと同時に
同じ光景が目の前を埋めつくした。

｢ん、美味しいね｣
同じように唇に泡をつけた兄がAに微笑む。

サッとおしぼりを掴み口元を拭きながら赤面する。
その表情は恥ずかしさとも悔しさともとれない哀感に満ちていた。そして、それは俺の神経を逆撫でするのには十分だった。

｢出るぞ、｣

Aの手首を怒り任せに握らないように引っ張ると
うつむいたまま席を立ち後をついてこようとする。

｢何、邪魔すんなよ｣

引っ張る力が遮られる。

聞き慣れた声の主は自分が一番敵に回したくない男。

｢兄貴、やりすぎ｣
｢あ？お前どの立場で言ってんの｣

｢こんなのいつも通りなのは分かってる、でもAは今までの女とは違ぇだろ｣
｢だとしても、お前に関係ねぇよなぁ？｣

｢…Aから手を引けって言ってんだよ｣
｢あ？｣

店内がザワつきはじめ、店員がこちらへやってくる。

｢お客様、他のお客様もいらっしゃいますので、｣

｢チッ、りんどー、｣
顎で“こっちこい”と合図をする兄について行く。
冷気を纏ったような態度に弟の自分ですら身が竦むようだ。

｢ま、待って下さい。私は大丈夫ですから…！｣
｢それ、本心？｣
｢…｣
｢我慢する必要はねぇ、兄貴と喧嘩するのもいつものことだ。絶対ついてくるなよ、すぐ終わる｣

｢大丈夫だ、そこにいろ｣
ぽん、と頭にのる一瞬触れる優しい体温

2人が出て行った後、Aは周りの視線に｢ご迷惑をおかけしてすいません｣と軽く会釈するとその場に座った。