兄貴のお気に入りに恋をした【灰谷竜胆】 (ページ28)

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チク…チク…

｢…痛っ、｣

アドレナリンが出てる状況で殴られても何とも思わねぇけど
今は拳に気がいっちまうからか、地味に痛ぇ。

｢深く切れてないから縫わなくても大丈夫そうだよ｣
おっさんはそう言いながら鋭利なピンセットで細かい破片を摘んでいく。

｢染みるけど我慢ね！｣

｢～～っ！！｣
消毒液をぶっかけられるこの瞬間が1番苦手だ。

｢頑張って！｣
Aの抑える手にも力が入る。

｢はい、終わり。喧嘩も程々にしなきゃだめだよ｣
おっさんの処置が終わってAは片付けをするために奥に入引っ込んで行った。

｢おっさん、あいつ何日くらいここで研修すんの｣
｢今日が初日ってわけじゃないけど、あと3日かな｣
｢そうか｣
｢なに、あの子に惚れてるのかな？｣
｢違ぇよ！｣
｢遊びでなら手出だすなよ。将来有望な卵なんだから｣
｢…わかってる｣

少し名残惜しい気持ちのまま病院を後にした。
徹夜で殴ってたからそろそろ寝みぃ…限界。
いろいろありすぎた、…限界。(2回目)

｢あの…！｣
後ろから呼び止められ振り返る。

｢あ？｣
｢その怪我、あの後どうしたの？｣
｢…関係ねぇだろ｣
｢でも、｣
｢いつもこんなんだから気にすんな｣
｢そんな頻度で怪我してる人見たことないよ｣

俺が怪我して心配してくれるのなんて兄貴くらいで、
Aにそう言われると何ともむず痒い。

｢メール！｣
｢？｣
｢メールちゃんと送ってね？…お礼したいの｣
｢…服返すだけでいいわ｣

本当は｢服ももう要らねぇ｣くらいに思ってたんだけど。
俺が関係を切っても兄貴が繋げるなら俺はどーしたらいいんだよ。この出来事だって報告した方がいいのかよ？
報告したらソッコー来るだろ、ここに。
営業妨害もいいところだわ、うん、黙っとこ。
卵の為だしな！(そう思い込むことにする)

｢東雲さーん？｣

遠くから先輩看護士が呼んでいる。

｢あ、私行かなきゃ！メールちゃんとしといて、ね！｣
ビシ！と俺の顔に人差し指を突き出してくる。

誰に向かって指図してんだ、こいつ。

パタパタと戻っていく彼女を見ながら回らない頭で思うことはただ1つ。

眠ィ、限界。寝る、帰ってすぐ寝る！！

それだけだ。