ひらり、言の葉。

きみだけの定位置。1 ページ36

「あとで楽屋に挨拶に行かせてください！」

「えぇ！？いや、いいよ！俺帰りたいし！」

「そんなこと言わないでくださいよぉ、着替えたらすぐ行くんで！待っててくださいね！？」

「はいはいはい」


そんなやりとりを後ろ耳に聞きながら、ニノと一緒に楽屋の道をたどる。
こっそり目を向けるけど、当の本人の表情からは感情の揺れは感じない。

気にしすぎかなと思わなくなかったけど、さらに前を歩く潤の振り向いた視線から、俺の心配は俺だけが持ってることじゃないとわかる。

だから。

さりげなく、ニノのそばに。




.




楽屋に着いてすぐ。
ドラマ撮影真っ最中の智くんと潤が連れ立って出て行く。

お疲れ、お先に、と声をかけるなかで、ふたりの視線は俺の隣のニノへ。
ばさりと上着を脱いでるニノ本人は相変わらずで。
左手を軽く上げて、挨拶をしていた。

でも、その視線ふたつは、ニノから、俺へ。


大丈夫。わかってる。


そんな意味を込めて軽く頷くと、ふたりは少しは安心したように出て行った。

ふたりとしては気になるであろう、ニノのこと。
でも、ドラマ撮影期間はスケジュールがタイトな為、俺に託して出て行ったんだろう。

あとで報告が必要かな、と思いながら、着替え終わってソファに座り込んだ。
さも、今しなきゃならないんですって空気を出して、持ち歩いてる書類を開く。

しばらく目で文章を追っていると。


とふ。


右肩に重み。
その正体はもちろん、ニノ。


いつもならすぐに帰途につくニノのこの動きに、やっぱり、自分の心配は間違いじゃないと知る。

そっと左手を、まだ帽子をかぶってないセットされたままの髪の毛に乗せて、ぽん。と撫でた。

すこし唇を尖らせて、小さくあごをひくニノ。


「お疲れー！あー、ふたりとも、帰っちゃった？」

「おー。あしたも早いだろうしね。
すれ違わなかった？」

「ううん。会えなかった！
…翔ちゃんと…ニノ？も、まだいんの？
なにしてんの？」


遅れて楽屋に戻ってきた雅紀が口にしたタイミングで。


ーコンコン！


「おっじゃましまーす！」


テンションが高いと感じる複数の声が聞こえて、楽屋のドアが再び開いた。

きみだけの定位置。2→←＊ご挨拶＊

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