強くなりたい ページ30
「何してるの、こんな所で」
「雲雀先輩、すみません。すぐ帰ります」
「そうじゃなくて、何してたのかって聞いてるんだけど」
「リング争奪戦を見て……というより風で音と動きを拾っていました」
「へぇ、君そんな事も出来るんだ」
「はい。遠すぎると上手く音は拾えなくなりますがこのくらいの距離なら大体は」
「昨日や一昨日もここに来てさっきみたいなの見てたの？」
「はい。一応隠れて見てたのでツナたちは知らないと思います。
「顔を隠している理由は？」
「私がこれに関わっているって知ったら、きっとツナは怒るし、ツナの修業に影響が出ると思ったからです。せめて
雲雀の方を見てはいるが、微妙に視線は合わない。Aがこの場から逃げ出したいと心のどこかで思っているからだろうか。
「君ってこういうの見るの嫌いだと思ってた」
「苦手です。誰かが、友達が傷つくのを見て楽しいわけがない。……でも、でも私は彼らを見届けないといけないんです」
「それって君が抱えてる呪いと関係ある？」
「……そう、ですね。あると思います。呪いというか、役目というか……」
雲雀がAの隣に座る。
「その役目とやらで君が潰れちゃ意味ないんじゃないの」
「それはそう、なんですけど……それでも、私じゃなきゃダメなんです」
「…………帰るよ」
「えっ」
「僕が校舎に入った時点で試合は終わってた。これ以上ここにいる必要あるの？」
「ない、です」
「そう。なら帰るよ。今の君に必要なのは睡眠だから」
雲雀はAを持ち上げ、校舎を出る。
最初こそ「自分で歩けます」「大丈夫だから下ろしてください」などきゃんきゃん言っていたAだが、一定のリズムで揺れるのが心地よくて気づけば眠っていた。眠った理由は精神的な疲労もあるが、安心する雲雀の腕の中にいたというのが一番の要因だろう。
「赤ん坊みたい」
その日のAは久しぶりにぐっすり眠れたという。
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作者名：うがつ | 作成日時：2022年9月22日 23時
