if 白虎と初めの黒い龍 (ページ6)

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1・白虎、籠絡されるページ6

柔かで暖かい手足の檻に懐(いだ)かれての懇願。李里は自分の葛藤の、理性の方の言い分を諦めた。好きだと告げる感情に身を任せる。
「…あなたの好い人に、なります」
どこかの水道の締まりが甘いようで水滴の落ちる音が聴こえる。李里は強く抱きすくめられて真一郎の鼓動を感じた。早鐘を打つそれに、彼は緊張していたのだと気づいた。
「真一郎さん、どきどきしてる？」
「…あんだけカッコつけたのに…オレカッコ悪ぃ…」
横抱きのような体勢からでは彼の顎から頸にかけてが視界の殆どを埋めるが、ほんのり見える耳が赤いことからきっと紅潮した顔をしているだろうことが知れる。
「そういうところも好きです」
もう理性は敗けたから、『好き』の我慢はしない。ストレートな口説き文句をぶつけると、触れているところの温度が少し高くなった。
「待って、」
「ワルいオトナでどきどきしましたが照れて可愛いなんて、これ以上好きにさせてどうするつもり？」
「あの、李里サン」
「好き」
頚筋に、耳に、衣服に守られた鎖骨に桜吹雪の掠めるような口づけ。枷の外れた好意が大暴れしている。
「李里」
呼び捨てで名を呼ばれて、それがスイッチであったかのように李里は動きを止めて真一郎の肩に顔を埋めた。先程まで自分がしていた行為の大胆さに気づいて一気に赤くなる。
「オレのこと大好きだな」
腕が緩められて、立つように促される。地に足をつけて真一郎の顔を見上げると、耳の下から顎にかけて手を添えられる。ブラックホールのような眼に微かに熱が灯っているのを見留めて、口づけの降る予感がした。視線を横にそらすと、唇の端に何か温度の低いものが触れる。しっかりと堅く、当たる面積が想像していたソレより小さい。親指、だった。それが、唇の形を確かめるようにやわやわと薄い皮膚を押しながら何度も横に滑っていく。
「良いか？」
眼を閉じて、漸う頷く。真一郎の顔が近づく気配がした。呼吸が判って、瞬きの風圧も判るような距離。鼻先が触れた。その瞬間を待つ。永遠のような数秒。先程触れた親指の皮膚とは違う、柔らかな感触。笑った息に目を開けると苦笑いを浮かべた恋人が居る。
「手ぇ出しちまった…」
「我慢できなくなって私から迫ったでしょうから結末は変わらなかったと思います。それに、私数え年で計算すればもう結婚できる歳ですよ」
只管に幸せなファーストキスの記憶。李里は、この人の最初で最後になりたいと思った。