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1・白虎、恋の十字架を背負う ページ1
機械油の匂いが染み付いた店内で、李里は作業をしている真一郎の背中を柔らかな感情で眺めた。いつも凭れ掛かる背中は、時折くしゃみに震えたり、道具やパーツを取る時に肩甲骨が動いたりする。会話はない。でも、彼の背中が語る感情を読み取るのはなんとなく自分達にそぐっている気がした。夏の日、自分が居なければ三年前に23の若さで夭逝していた背中が、李里が今この場に居ることを許してくれていることが、どんなに喜ばしくて据わりが悪いか知らないのだろうなと思う。
「べくしょい！…あ゛〜…コラ、笑うな」
「…だって、なんか…ふふ、」
余韻がおっさんくさいくしゃみさえなんだか愛おしく感じる。李里は、自分のこの感情が愛であり恋なのだと理解していた。でも、引け目があって『好き』の二文字さえ口に出せないでいるのだ。想うだけなら許してほしい。そんな思いで今日も重たい十字架のように恋を背負って生きている。
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作者名：契 ゐと（元 いときち丸） | 作成日時：2023年11月6日 15時
