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悲恋 ページ14

side,Kanata



Aは小さい頃から傍にいた、俺の幼なじみだ。
彼女は感情が顔に出やすい質ということもあり、彼女の考えていることを読み取るのは、長年一緒にいる俺にとっては容易なことである。

Aが俺に抱いている気持ちも…薄々わかっていた。




そんな彼女と対照的なのが真冬だ。
あいつの考えていることは本当にわからない。

頭がいいのにアホ。臆病なくせに野心家でもある。


そんな真冬がAと出会った日。
真冬はきっと、Aに一瞬で心を奪われた。

それは火を見るより明らかだった。
目を見開いて耳まで真っ赤に染めた彼の表情を見るのは、そこそこ付き合いのある俺でも初めてだったのだ。



”僕は恋、とかよくわからないです。でももし僕に愛する人ができたら…きっと僕、その人のこと僕だけのものにしたいって思うんだろうなー。独占欲、って言うんですかね?”



彼はいつか、そんな事を言っていた。

あいつの初めての恋を俺は応援したいと思った。




それならAが俺に向けている感情は…
当然無い方が良い。


─────────────────────

後夜祭当日 教室




「……行ったで、あの子たち。」


「…ごめん、ありがとう。棗。」



Aの前で俺の気持ちが彼女に向いていないことを示す。それが一番手っ取り早いと思った。

それに協力してくれたのが俺の目の前にいる背の低い少女、黒木棗。
一年ほど前まで交際をしていたが、俺が彼女を心から愛せなかったことで別れを告げた。


そんな彼女を利用して俺はAを傷つけた。
その傷が深ければ深いほど、真冬はきっとその溝につけ込みやすい。
棗とのキスを見せたことで、効果は歴然だっただろう。




「本当に良かったん?」

「あぁ、付き合わせてごめんな」

「うちはええけど……酷い顔しとるで。」




もう既に花火は終盤へと差し掛かり、無数の大輪が空を彩っていた。



ああ…A、泣いてたな。
いつ見てもあいつの泣き顔は胸が痛くなるんだ。



教室内にも花火の光と音が伝わり、外の喧騒はすっかり掻き消された。
彼の整った横顔を眺めながら、棗と呼ばれた少女はぽつりと、一言。





「ばかやなぁ、Aのこと、ずっとずっと前から好きやったくせに。」




彼とAがお互いに、お互いを思っていたこと。
彼が『純粋に』彼女を愛していたこと。




黒木棗だけが、知っていた。

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作者名:成瀬 | 作成日時:2018年7月22日 14時

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