sweet sweet sweet

雨夜の月＜3＞ ページ36

手越side


目が覚めたのは、滅多に鳴らない電話が鳴ったからだった。

「ん……、電話？ケータイじゃなくて？」

タカが俺を抱きしめたまま呟くけれど
とりあえず電話に出るために起き上がる。


「Hello？」

『兄さん！よかった、やっぱそこだった！』

「え、祐希？」

『兄さん、お願い。帰ってきて』

「え……」

『父さんが、倒れた』


明らかに様子がおかしい俺を見て
タカが起きてくる。


「……どしたの？トラブル？」

「タカ……どうしよう。父さんが…」









俺は、その日のうちに日本へ発った。
タカは、どうしても外せない仕事があるから
それが片付いたら休暇を取って来てくれることになっている。


「父さん！」

「どうしたんだ。お前は勘当中だぞ？」


突然現れた俺に、驚いた様子の父さん。
あれ？なんかめちゃくちゃ元気じゃない？
父さんの側には、祐希。


「兄さん、ごめん」

「え……」

「あの電話……うそ」

「は？！」

「祐希、なんのことだ」

「父さん。そろそろ兄さんの勘当、解いてあげて……」



祐希が経緯を説明するのを終始黙って聞いていた父さんは、
不意にこっちを向いて笑う。



「祐希の気持ちは分かった。祐也、どうだ」

「どうだ……って、俺は……」



手越に戻ったらタカとはどうなんの？
また、離れ離れになるの？
黙りこくる俺に、父さんは優しく諭す。


「……ゆっくり考えなさい。貴久くんのことも
あるだろうから」

「おれ、は……」

「彼は、元気か」

「うん……。父さんのこと心配して、仕事片付けたら来るって言ってた」

「ははは！騙したようで心苦しいが、そうかそうか！彼が来たら、食事でもしよう。
今度は母さんと祐希も一緒に」



父さんは、1度しか会っていないのに、タカがお気に入りだ。
自分のために緊急帰国すると聞き、いつになく機嫌がいい。
祐希を見ると、手を合わせるジェスチャーをしている。
騙されたのは腑に落ちないけれど
父さんがなんともなくてよかった……。








「で？親父さんはピンピンしてた、と」

「ごめん……」


1週間の休暇を取って来てくれたタカに
父さんが元気だったと告げると
心底安心したようだった。


「何にもなくてよかったじゃん」

「ん……」

「せっかくの日本だし、どっか行く？」

「あ、あのね？」

「父さんが、食事しようって。母さんと祐希も一緒に」

「え……」


俺、またすげー緊張するじゃん！
タカは少しだけ情けない声で言った。

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