sweet sweet sweet

雨に濡れて＜1＞ ページ25

増田side


ずっと一緒にいられるって思っていたのは
俺だけだったのかもしれない。




「いらっしゃいませー」


コートの雫を払って店に入ると、
ぼんやりと外を見ている愛しい人の横顔。
俺に気づくと、少し笑って手をあげる。


「ごめん、会議が長引いて」

「いや、大丈夫。お疲れさま」

「で、なに？話って」

「うん……」

「なんだよ、言いにくいこと？」


鈍感な振りをして明るく聞き返すけれど
本当はわかってるんだ。


「俺……、結婚、する」

「そっか。おめでとう」

「……っ、それ本心？」

「まぁ、7割くらいは、ね」

「あとの3割は？」

「……よかったな、幸せになれよ」

「なに、それ」


手越は力なく笑う


「俺、結婚なんて、したくない」

「でも、親御さんとの約束だったんでしょ？
25になったら結婚して家業を継ぐって」

「そう、だけどさ」

「大丈夫。そのうち忘れるよ、俺のことなんて」

「ふふっ……。タカは忘れちゃう？おれのこと」


今にも涙が溢れそうな瞳。
忘れるわけないだろ？
俺だって許されるなら、そばにいたい。
だけど……


「俺さ、転勤になったんだ」

手越の顔色が変わる

「え……、どこに？」

「ロンドン」

「いつ…」

「来月には発つ」

「うそ……」

「……一応、栄転なんだけど。おめでとうって言ってくれないの？」


少しでも場の雰囲気を変えたくて、冗談を言う。
だけど手越は、そんなジョークもわからないくらい
動揺していた。


「な、んで……？いつまで？」

「ん、どうだろ。2年くらいかな」

「……っ、や…。いや、だ」

「手越」

「本当にもう会えないじゃん……」

「ばか。死ぬわけじゃないんだから。また会えるよ」


お前には、幸せになってほしい。
優しいお前は、きっと婚約者のことも大切にするだろう。
たとえ、親が決めた相手だとしても。


「……今日は、一緒にいてくれる…？」


優しくて強くて努力家で負けず嫌いなのに
人一倍繊細で、寂しがりやで。


＜タカには、本当の自分を見せられる＞


いつだったか、そう言って照れくさそうに笑ってたな。
どうして、そばにいて守ってやれないんだろう。
誰よりも大切なのに。
こんなにも愛しているのに。


「……いいよ。一緒にいよ…」


テーブルの上に置かれた手に、そっと手を重ねると
手越の瞳から涙が零れた

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