337 ページ7
(2015年)
(JH side)
何度逃げ出そうと思ったことだろうか。右も左もわからず、ただスカウトされて事務所に入り、厳しい毎日の練習。宿舎で大所帯で過ごして。人生の終わりじゃないかと思うぐらい毎月行われる月末評価はドキドキするし、本当に逃げ出したくなる。
『フゥ…』
今日も月末評価がやってくる。隣にいたAが大きく息を吐いている様子が見えた。そうだよな、緊張するよな。今日の順番はAが1番だ。
JH「………逃げる？」
なんとなく思っていたそれ。いや、本気で考えたことだって何度かある。でも口に出したことは無かった。今だって口に出すつもりはさらさらなくて。でも思わず出たその言葉にAは大きく目を開く。
『えっ…！？』
JH「あ、いや、うん。何でもない。聞かなかったことにして」
床に座っていた僕の隣にAも腰を下ろす。なんてことを言ったんだろうか、俺は。俺と違ってAは真面目で、きっとこの場から逃げ出したいだなんてこの練習生期間の一度も考えたことが無かっただろう。
ハァ、とため息を吐いて三角座りをした自分の膝に顔を隠すように押し付ける。Aが次に放った言葉は意外な言葉で。
『オッパ、逃げ出しちゃおうか？』
JH「え！？」
『ね？』
人という生き物は、自分よりもヤバい人を見ると冷静になると言う法則は本当らしい。さっきまではそう思っていたのに、Aがそう言ったモンだから逆に自分が冷静になる。
JH「いや。本当に冗談なんだよ、今のは」
『…フフッ、わたしも冗談だよ。本気じゃない』
ニッ、っと白い歯を見せて笑って、Aはそっと俺の手を包んだ。
『オッパなら大丈夫。絶対に』
自分だって、今日の月末評価。きっと自分のことだけで精一杯なはずなのに、それでいて俺の心配までしてくれて。
『終わったら逃げ出そう、か』
JH「それ逃げ出すって言わないんだよ」
『アハハ！そうだね。美味しいものでも食べに行こう』
JH「いいね。約束」
『約束ね！』
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1007人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：柚紀
| 作成日時：2022年12月26日 11時
