すとすと９[短編集] (ページ31)

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side赤

出会った頃は金、今はやや銀色の入った髪の樹さん。俺が初めて好きになった男の人。

前に断る理由を俺が男だからなのかと聞いてみたことがあって、でもその答えは「そうじゃない」だったから、全くの脈ナシではないんだと思っている。

タメ口でも許してくれたり、俺の話で笑ったりツッコミを入れてくれたり、ある程度俺に心は開いてくれているとも思う。

でもこの2年、樹さんの反応は変わらない。

それでも俺はいつか振り向いてくれるまで追いかける。

今は今で楽しいし、拒否もされず樹さんに手際よくカットしてもらいながら話ができるのは何より嬉しいから。

「今日もありがとう。また来るね」

「おん」

「ふふ。じゃあね、樹さん」

「気をつけて帰れよ。就活頑張って。･･･ありがとうございましたー」

会計も終えて、最後の最後は他のお客さんと同様に見送られて帰路に着く。

ここに来た日の帰りは気分がいいから、就活中はお酒は飲まないようにしているけど今日は1缶くらいいいかな、なんて考えながら地面を蹴った。

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あれから3か月ほどが経ち、だいぶ春の気配がしてきた3月。

今回も最後の時間帯に樹さん指名で予約を入れて美容室に行くと、まだ前の人をやっている最中だった樹さんと鏡越しに目が合った。

それが終わるのを待って、連れられるままに鏡の前に座る。

「待たせてごめんな」

「ううん、樹さんにやってもらえるだけで幸せだから」

「わーったから、前向け。で、今日も前回と一緒でいいのな？」

「･･･ふふ。あのね、樹さんに報告があります」

「んえ、なに」

「俺、就活終わりました！先週内々定もらったんだ」

「おぉ、マジ？おめでとう！」

「ありがとう！樹さんにいい報告できてよかった〜。おめでとうって言ってもらえて嬉しい」

「俺もなんか嬉しいわ。就活お疲れ」

「Hehe、ありがと」

そんなサプライズの報告をこればかりは手を止めて聞いてくれた。

頑張れたのは樹さんのおかげだから本当によかった。

「だから、今日は久々にカラーおまかせでお願いします！」

「ふふ、了解。カットはどうする？」

このくらいの長さで、ここはそのまま、なんてお願いをして、樹さんが椅子に座ってワゴンを引き寄せるとカットが始まる。

慣れた手つきと真剣な目つきでハサミを動かす樹さんは、本当にカッコイイ。

雰囲気や人柄だけじゃなく、そんな姿にも俺は惚れたんだ。

もう樹さん以外に切ってもらいたくない。