【男性声優】さ い だ ー が ー る ! ! ９【愛され】

Happy birthday . (2/4) ページ44

それは、実に突拍子も無い台詞だった。

夏に降る雪のように。
冬に咲く向日葵のように。



浅｢…俺さ、あと数年したらやめようかなって。声優。｣

｢………え…？｣



初めて脳内に響いたその台詞は、鈍器で殴られたような衝撃があった。

居酒屋のどっとした空気の中、まるでAだけ取り残されたかのように頭が真っ白になる。


てっきり呼び出されたのは、誕生日という特別な日を自分に祝わせてくれることかと思っていたのだ。

思わず渡す為に膝の上に置いていたプレゼントをクシャッ…と強く握ってしまう。


そんな、突然何で。

何を言っているのか分からなくて。
その意味も分からなくて。


浅沼先輩が、声優を辞める…？


咄嗟に出た言葉は、｢っあ…あっと…何か、病気なんですか…？｣という弱々しいもの。

それに対して困ったように笑いながら、｢違うよ。俺は健康。｣と返される。

じゃあ尚更。
なんで声優を辞めるのだろうか。


Aに声優の苦しさを教えてくれたのは浅沼。
その苦しさから逃げるなと背中を押してくれたのも浅沼。

師匠みたいな、お兄ちゃんみたいな存在なのだ。


Aの涙を代弁するように、テーブルのジョッキからポツリと水滴が流れた。



｢…なんで、なんで…辞めちゃうんですか…。｣

浅｢潮時かなって。俺ももう44だし、しっかりした職持ってさ。｣

｢潮時なんて…言わないでくださいよ…。まだ、まだまだ浅沼先輩は、｣

浅｢俺はね、Aの中でかっこいい先輩になれてたら、それでいい。もうやり残すことは無いよ。｣

｢っダメ、辞めちゃダメです！！｣

浅｢おわっ…びっくりしっ…、｣



突然出したAの声に｢びっくりした…｣と言いかけるが、Aの言葉に遮られる。









｢浅沼先輩は、浅沼先輩はっ…そんな簡単にこの仕事投げ出したりしないでしょっ…！！

私の先輩じゃん！！私の、わたしの…大好きなせんぱいだもん……。｣





唖然の一言。


.

Happy birthday . (3/4)→←Happy birthday . (1/4)

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す