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善逸は口を開いたまま言葉を詰まらせる。

炭治郎が苦しそうなのはその表情だけでなかった。とても辛く苦しそうな音が彼のその身体から聞こえていた。


「……急に何言ってんだよ」


善逸はぽつりと言葉を零す。今までの人生で一番、聞いていてわけがわからない。


「ごめん。実は俺、知っていたんだ。前世からずっと知ってたんだ。善逸の想い、全部」
「前世でそのことを聞いてしまったら善逸にとって酷な気がしたから、どうしても聞けなかった」


優しさ故に、気付かないフリをしていてくれたんだろう。善逸は炭治郎の言葉を聞きながら考える。
そして炭治郎は言った。


「俺は、どうあがいてもAと幸せになれないから」


その言葉からはほんの少し、炭治郎の胸の内が見えた気がした。
双子だから。兄妹だから。家族だから。きっと炭治郎は今まで自分の気持ちを抑えてきたんだろう。

聴こえてくるのは、炭治郎の苦しそうな音。


「炭治郎、そんなこと言わないでくれよ」
「頼むからさ……炭治郎がそんな風に言ったりしないでくれ……」


善逸は知っていた。
Aは炭治郎と一緒に喋っているときが一番楽しそうで嬉しそうな表情(かお)をしている。そして炭治郎もまた、Aと話しているときが一番幸せそうだということを。


「俺は炭治郎とAちゃん、二人に幸せになってほしいんだ」
「確かに炭治郎の言う通り、俺はAちゃんのことが――」


言葉の途中で善逸は不自然に口を動かすのをやめる。決してこの先は言うまいと。

炭治郎はそれらの善逸の言葉に対しては無言のまま何も答えなかった。
善逸は再び口を開く。


「俺は……炭治郎に嘘を吐かせてまでAちゃんと一緒になりたいなんて思わない。俺達はお互いに嘘がつけないからさ、正直でいようよ」


その鼻で他人の感情を嗅ぎ分ける炭治郎。
その耳で他人の感情を聴き分ける善逸。

お互い、どうしても嘘がわかってしまうような体質だった。だからこそ二人は互いに正直に生きていた。

善逸は声を震わせながら言葉を続けていく。


「それに誰がAちゃんと一緒になるかなんて、それを決めるのは俺達じゃない。Aちゃん自身なんだよ」

「……確かに二人には血縁関係があるから結婚とかはできないかもしれない。でも……普通の人間として一緒に幸せになることはできると思うんだ」


「だからさ、炭治郎。俺達二人でAちゃんを笑わせてさ、幸せにしてあげようよ。みんなで幸せになろうよ」

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作者名:さぬやぎ | 作成日時:2020年4月13日 13時

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