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どうして、優しい人間ばかりが辛い目に合うのだろうか。



―――



窓際の席に座っていた善逸は、ぼんやりと校庭を眺めながらそんなことを考えた。


開いている窓から夏のにおいが香ってくる。

季節は六月。最近少し早い梅雨明けが来たかと思えば、ちらほらと蝉のうるさい鳴き声が聞こえてくるようになった。


善逸は朝からずっと上の空だった。それは授業中に目つきの悪い数学教師からチョークを投げつけられてしまうほど。

少し遅い五月病……というわけではなさそうだ。

善逸がこの状態になったのはきっと先日の炭治郎と会話をしたときから。

そう。彼らの前世についての会話が原因だろう。







善逸には物心ついた頃から前世の記憶があった。

まるで映画のように頭の中を流れるその記憶に、最初こそは理解が追いつかなかった。が、それについては時間が勝手に解決してくれたのでそこまで問題ない。

前世のその記憶は成長するにつれてより鮮明になり、そしてリアリティというものを持つようになっていく。


その記憶の中にはいつも色々な人々がいた。それは心の優しい家族思いの少年を始めとして、猪頭の奇妙な少年や、鬼として陽の光の下を生きる少女。そして――。


「ねえ善逸」


愛おしい笑顔を常にその顔に携えていた少女。


善逸の記憶の中にはいつも彼らが隣にいた。そしてその記憶を思い出すたび、次第にある想いが強くなっていった。


――一度だけ、彼らに会ってみたい。


けれど手がかりとしてあるのは己の記憶だけ。そもそも彼らがこの時代を生きているのかさえも疑問だった。


さらにそんな状態に追い打ちをかけるように気付いてしまった事実があった。それは善逸がある程度の知識と理性を身につけた頃。


――前世のことは誰かに相談できるものではないんだ。


その事実を理解してしまったら、彼らを探すために行動しようと思うことはなくなった。



そしてそれから数年後。出会いは突然に起こった。

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作者名:さぬやぎ | 作成日時:2020年4月13日 13時

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