25. 卒業 ページ25
貴方.
『どこらへん……あ、見つけた！』
正「えらい可愛い格好してんなあ、A」
『まあ、最後やからねえ』
ジャケットを羽織った正門くんが、手を上げた。彼の後ろにあるのはもちろん車で……いや、こんなん改めて付け足すのも変な説明やけど、正門くんはほんまのペーパードライバーって聞いてるから、車と並ぶとちょっと変な感じするんよね。そのまま通話を切って、彼のそばに駆け寄る。
今日は私の大学の卒業式。それなりに楽しませてもらえたからか、式が終わった後は仲の良い友人と軽い二次会へ。普段は行かないようなお店に行ったから、彼が言う「えらい可愛い格好」というのは、ネイビーに近い濃いブルーの落ち着いたワンピースのことであって。
正「卒業おめでとう、A」
『ふふ、ありがとう。何か照れくさいな〜、こういうの』
正「なぁんで、俺にもさせてよ、お祝い」
『しゃあなしやで？』
「いつ帰るん？」なんて親のようなメッセージを送ってきたかと思えば、正門くんは駅まで迎えにきてくれた。それも車で。びっくりするよな？
若干不安ではあったけれど、大ちゃんから事前に「俺が厳しくチェックしといたから安心して」という連絡があり、お言葉に甘えて送ってもらうことにした。当たり前のように助手席に通されて、ほんの少しむず痒い感覚を覚える。
『……大丈夫かな、正門くんの助手席座って。刺されへん？』
正「はは、そんな怖い？俺のファン」
『良い気持ちはしないでしょ〜、』
正「まあね、……でも俺が乗せたいから乗せるし、いざってときは守ったろ」
『……ふふ、お願いしよかな』
本当は知ってる。穏やかで優しい彼に似て、ファンの子たちも皆私に優しいことを。自分自身の照れ隠しのために茶化してしまったのは申し訳ないけれど、お互いがアイドルであることが、私がイマイチ彼の中に踏み込めない最大の理由であることは間違いない。
まあ、今日くらいは全部忘れよう。そう思ってシートベルトを締めると、正門くんは着ていたジャケットを脱いで、そのまま私の膝に掛けてくれた。
正「俺暑いから預かっててくれる？」
『……もう春やもんなあ、ありがと』
正「あったかくなんで、ここから」
『早いねえ……』
少しぎこちない手つきでハンドルを切る姿に、今だけは目を瞑ってあげることにしよう。
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